Archive for 01 June 2005

01 June

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 244


For only to a magician is the world forever fluid, infinitely mutable and eternally new. Only he knows the secret of change, only he knows truly that all things are crouched in eagerness to become something else, and it is from this universal tension that he draws his power. To a magician, March is May, snow is green, and grass is gray; this is that, or whatever you say.

「何故なら、魔法使いにとってのみは、世界は常に流動的であり、限りなく変化に富み、いつまでも新しいものであり得るからです。魔法使いのみが変化の裏側にある秘密を弁えており、魔法使いのみがあらゆる事物が何か別のものに変質しようと期待を込めて待ち構えていることを正しく理解しているからです。魔法使いがその力を引き出すのは、正しくこの宇宙全体の秘める緊張からなのです。魔法使いにとっては三月は五月であり、雪の色は緑であり、草の色は灰色なのです。目の前のこれは他のあれでもあり、あるいは誰かが口にする何であってもよいのです。」

 シュメンドリックが語る魔法使いの存在意義と世界の構成原理の秘密である。本作品におけるキーワード“magic”と、最も直截に関連する箇所である。彼がここで語っている、あらゆる存在物が一つだけの形質に縛られることなく全てが “metamorphosis”の可能性を秘めている、という仮説は、伝統的なファンタシー文学一般の共有する思想的仮定として、あるいはファンタシーの中に見出される共通の願望として理解すべきものである。そこには極めて真摯な根源的真理に対する探求の願望と、甚だしく苛烈な既存の秩序に対する破壊願望の双方がある。

用語メモ
 “metamorphosis”(変身・変質):既存の社会的尺度に固定された形状・材質の制約ある表現形に束縛されることなく、潜在的能力として万物が共有するであろう本質的な可能性自体を柔軟に評価しようとする意図が、“メタモルフォシス”という言葉を通して魔法という根本原理再構築の技法を夢想させるのである。


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作品研究サンプル
▼『不思議の国のアリス』とファンタシーの世界
・映画“ラビリンス”とアリス
・映画“ドリーム・チャイルド”とアリス

(論文、アンチ・ファンタシーというファンタシー(13)「荒唐無稽とアナクロニズムとペテン的記述―『最後のユニコーン』における時間性と関係性の解体と永遠性の希求」、『ピーターとウェンディ』注釈テキスト "Annotated Peter and Wendy"等を公開中)


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