Archive for 12 June 2005

12 June

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 255


"All the way up the stairs it was a dragon's head, the proudest gift anyone can give anyone. But when she looked at it, suddenly it became a sad, battered mess of scales and horns, gristly tongue, bloody eyes."

「階段を上っていく間は、あれは確かに立派なドラゴンの首だった。誰にとってもこの上なく誇り高い、最高級の献上品の筈だった。けれどアマルシア姫がドラゴンの首に目を向けたとたん、血まみれの目と、筋っぽい舌と鱗と角のついたぐしゃぐしゃの、哀れな肉の固まりに見えてしまったんだ。」

 英雄として勝ち取った戦利品であるドラゴンの首をアマルシア姫に献上しに行った時の、興醒めな結末を語るリア王子の言葉である。勇壮な冒険の成果である筈のドラゴンの首が、全く異なった価値観のもとに、リアリスティックな側面に焦点を当てて描かれているのである。ロマンスにおける一元的な価値原理が崩壊した後の、疑似ロマンス世界再構築の作業を行いつつあることのはなはだ自意識的な感覚を冷徹に強調する試みがここに提示されている。このお話の中心的属性決定要素となるキーワード“antifantasy”に最も深く関連する場面の一つである。

用語メモ
  trophy(戦利品):戦いを行うこと、価値あるものとして何かを勝ち取ること、その成果を誰かに捧げることのそれぞれの意義が、確たる幻想として共有されるための普遍的世界観が失われてしまったことに対する醒めた自覚がこの物語の根底にある。ドラゴンの首ばかりか、他のいかなるものも 真の"trophy"とはなりえない時代に我々は生きている。


メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

作品研究サンプル
▼『不思議の国のアリス』とファンタシーの世界
・映画“ラビリンス”とアリス
・映画“ドリーム・チャイルド”とアリス

(論文、アンチ・ファンタシーというファンタシー(13)「荒唐無稽とアナクロニズムとペテン的記述―『最後のユニコーン』における時間性と関係性の解体と永遠性の希求」、『ピーターとウェンディ』注釈テキスト "Annotated Peter and Wendy"等を公開中)


[Read more of this post]
00:00:00 | antifantasy2 | No comments | TrackBacks