Archive for 22 June 2005

22 June

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 265


"Now I am two--myself, and this other that you call 'my lady.' For she is here as truly as I am now, though once she was only a veil over me."

「今は私の心は二つに別れてしまいました。もとの自分と、あなた方が“お姫様”と呼ぶもう一人の私です。以前は私の体の上にかかった覆いのようだったのに、今はもうこの私そのものになってしまいました。」

 ファンタシー文学の多くにおいて人格の分裂、影の生成という裏の主題が潜伏していて、多様化した価値観のために錯綜した人間の心が分裂し、その結果生み出された影(人間の本体を成すものの一部が切り離された結果、超越的な能力を増幅する)があるいは不気味な妖怪として、またあるいは堕落した人間性を糾弾する超越者として機能し、何らかの意味で本体である人間がこれらと敵対することを強いられることとなっていたのに対し、ここではもともと人間を超越した永遠性の持ち主であるユニコーンの心の分裂が描かれ、その結果生成したものが人間となっている。ファンタシー文学の機構が巧みに反転して応用されていることになっている。“antifantasy”の効果的な発現例として指摘することが出来る興味深い部分である。

用語メモ
 人格分裂(split personality):現代の心理学で話題になる“多重人格”もそうだが、むしろ統括的な宇宙論として精神・肉体をも含めた総合的な存在論的解釈を試みる方策の一つに、人格の分裂と統合という図式を用いて観念・事象の全てを理解しようとする古典的宇宙論の存在があったのである。

メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

作品研究サンプル
▼『不思議の国のアリス』とファンタシーの世界
・映画“ラビリンス”とアリス
・映画“ドリーム・チャイルド”とアリス

(論文、アンチ・ファンタシーというファンタシー(13)「荒唐無稽とアナクロニズムとペテン的記述―『最後のユニコーン』における時間性と関係性の解体と永遠性の希求」、『ピーターとウェンディ』注釈テキスト "Annotated Peter and Wendy"等を公開中)




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