Archive for 03 June 2005

03 June

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 246


A wind began to rise in the dark chamber. It came as much from one place as another--through the window, through the half-open door--but its true source was the clenched figure of the wizard. The wind was cold and rank, a wet, hooty marsh wind, and it leaped here and there in the room like a gleeful animal discovering the flimsiness of human beings.

ほの暗い謁見室の中で、一陣の風が沸き立ちました。それはどこからともなく、あらゆる方角から吹き付けてくるように思われました。窓の外から、あるいは半開きになった扉の向こうからも吹いてくるようでした。けれどもこの風を送っている本当の源は、固く握りしめた魔法使いマブルクの拳なのでした。この風は冷たく、湿っぽい、沼地から流れて来る腐ったような嫌な臭いのする風でした。そしてこの風は、人間のひ弱さを発見してはしゃいでいる動物のように、部屋の此処彼処で飛び跳ねているのでした。

 いきなり一方的に解雇の宣告を受けて腹を立てた魔法使いマブルクが、復讐のために用いた魔法の描写である。動物のイメージを活用する生き生きとした表現であると共に、実は極めて漠然とした、観念だけが先行した曖昧な喩えが無気味に不思議な効果を発揮しているのである。

用語メモ
 flimsiness(ひ弱さ、脆弱さ):か細く壊れやすいものを形容するのに用いられる“flimsy”という単語からきた言葉であるが、「人間の脆弱さ」とここで呼ばれているものが具体的に何を意味するものかは、実は明確ではない。ハムレットの台詞"frailty, thy name is woman"(「弱き者、女よ。」)を思い起こさせもする。この場合の「弱き」とは、「志操が堅固ではない。」の意味である。


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作品研究サンプル
▼『不思議の国のアリス』とファンタシーの世界
・映画“ラビリンス”とアリス
・映画“ドリーム・チャイルド”とアリス

(論文、アンチ・ファンタシーというファンタシー(13)「荒唐無稽とアナクロニズムとペテン的記述―『最後のユニコーン』における時間性と関係性の解体と永遠性の希求」、『ピーターとウェンディ』注釈テキスト "Annotated Peter and Wendy"等を公開中)


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