Archive for 05 June 2005

05 June

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 248


"Why do you linger at the window?" he demanded. "What are you looking at?"
"I am looking at the sea," said the Lady Amalthea. Her voice was low and tremulous; not with fear, but with life, as a new butterfly shivers in the sun.
"Ah," said the king. "Yes, the sea is always good. There is nothing that I can look at for very long, except the sea."

 「何故お前は窓の許を離れようとせぬ。」ハガード王は厳しく尋ねました。「何を見ておるのじゃ。」
 「海を見ております。」アマルシア姫が答えました。彼女の声は低く、震えていました。でもそれは畏怖のためではなく、生まれたばかりの蝶が陽の光を浴びて震える時にも似た、命のみなぎるような声だったのです。
 「ああ。」ハガード王は言いました。「確かに、海はいつでも良いものじゃ。海を除いて儂が長い間目を向けていられるものなど、他にない。」

 アマルシア姫に声をかけたハガード王とアマルシア姫の交わした会話である。最高級の卓越したものにしか満足を得ることの出来ないハガード王には、海以外に失望を感じさせることのないものはないというのである。その深遠さと常に新鮮さを失うことがないうるわしさという属性において、海とユニコーンは等質の存在性向を備えるものなのである。

用語メモ
 失望(disappointment):如何なる達成も絶え間無い自省という宿痾のために悔恨の種としかならない、致命的な自意識という呪いを背負った『ピーターとウェンディ』の悪漢フックと、快楽の総てを知り、なおかつ充足を得ることが決して無く、常に絶え間の無い飢餓感にあえぎ続けている『最後のユニコーン』の敵役ハガード王は、見事なまでに酷似した存在性向を備えている。
 そしてまた、いかなる達成も向上と変化に結びつくことがない不毛な経験者であり続けるという点では、実は奇妙にピーター・パン自身とも相似的なのである。


メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

作品研究サンプル
▼『不思議の国のアリス』とファンタシーの世界
・映画“ラビリンス”とアリス
・映画“ドリーム・チャイルド”とアリス

(論文、アンチ・ファンタシーというファンタシー(13)「荒唐無稽とアナクロニズムとペテン的記述―『最後のユニコーン』における時間性と関係性の解体と永遠性の希求」、『ピーターとウェンディ』注釈テキスト "Annotated Peter and Wendy"等を公開中)








[Read more of this post]
00:00:00 | antifantasy2 | No comments | TrackBacks