Archive for 10 March 2006

10 March

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 114


 It must also have been rather pretty to see the children resting on a rock for half an hour after their mid-day meal. Wendy insisted on their doing this, and it had to be a real rest even though the meal was make-believe. So they lay there in the sun, and their bodies glistened in it, while she sat beside them and looked important.
 It was one such day, and they were all on Marooners' Rock. The rock was not much larger than their great bed, but of course they all knew how not to take up much room, and they were dozing, or at least lying with their eyes shut, and pinching occasionally when they thought Wendy was not looking. She was very busy, stitching.
 While she stitched a change came to the lagoon. Little shivers ran over it, and the sun went away and shadows stole across the water, turning it cold. Wendy could no longer see to thread her needle, and when she looked up, the lagoon that had always hitherto been such a laughing place seemed formidable and unfriendly.
 It was not, she knew, that night had come, but something as dark as night had come. No, worse than that. It had not come, but it had sent that shiver through the sea to say that it was coming. What was it?

 お昼の食事が終わった後の子供達が岩の上で半時間程お休みをしているところも、それなりに目を楽しませる光景だったことでしょう。食後はゆっくりとお休みを取らなければならないというのが、ウェンディの意見でした。その食事がメイク・ビリーブの食事であった時でさえも、お休みは本物のお休みでなければなりませんでした。そういう訳で、子供達は日差しの中で体を横たえました。子供達の体は日に照らされて光り、ウェンディは保護者らしく落ち着いて傍らに腰を下ろしていました。
 この日もそんな時でした。子供達はみんな置き去りの岩の上に来ていました。この岩は地下の家の大きなベッドより幾分大きめなだけでしたが、やはり子供達はなるべく小さく体を収めるやり方を心得ていて、全員が大人しくうたた寝をしていました。でも実際には目を閉じて横になっているだけで、ウェンディの目がこちらを向いていないと思った時には、互いの体をつねり合ったりしていたのです。ウェンディは繕い物で大忙しでした。
 こうしてウェンディが繕い物をしている時に、礁湖に変化が訪れました。水面にざわめきが広がり、太陽は姿を隠し、入江が影で覆われて辺りがひんやりと冷たくなりました。ウェンディは、もう針に糸を通すこともできなくなって、目を上げました。すると、これまではいつも笑い声に満ちた場所であった礁湖は、人を寄せつけないような、恐ろし気な場所になっていました。
 ウェンディには、夜が訪れたのではないことが分かっていました。その代わりに、夜と同じようにやはり無気味なものがやって来ていたのです。いや、むしろ夜よりもさらに薄気味の悪いものでした。それはまだ訪れてはいず、実際にやって来る前にその訪れを知らせるために、海を通してその戦慄を送ってきていたのです。一体それは何だったのでしょう?

 このエピソードにおいて不安と恐怖をもたらす来訪者として語られるものは、上の描写にあるように、海や空やその他自然現象のすべてと同調する全体性の相の変化でもあり、また精神の中に形成される統合的な主観的印象でもあるかのようである。事物の秘める根源的存在属性の統合的解釈を提示する、特有の思想的傾向が顕著に読み取れる場面の一つである。つまり“霊的位相”として外界/物質/様相の全ての要素/概念が、交換可能な連続体として理解される全体性の存在論である。

用語メモ
 shiver:“震え”、であり“戦慄”である。水面を伝わる波のざわめきのようでもあり、主観の内部に形成される慄然とした心の揺らぎのようでもある。




和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◆内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◆「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
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http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中




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