Archive for 11 March 2006

11 March

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 115


 There crowded upon her all the stories she had been told of Marooners' Rock, so called because evil captains put sailors on it and leave them there to drown. They drown when the tide rises, for then it is submerged.
 Of course she should have roused the children at once; not merely because of the unknown that was stalking toward them, but because it was no longer good for them to sleep on a rock grown chilly. But she was a young mother and she did not know this; she thought you simply must stick to your rule about half an hour after the mid-day meal. So, though fear was upon her, and she longed to hear male voices, she would not waken them. Even when she heard the sound of muffled oars, though her heart was in her mouth, she did not waken them. She stood over them to let them have their sleep out. Was it not brave of Wendy?
 It was well for those boys then that there was one among them who could sniff danger even in his sleep. Peter sprang erect, as wide awake at once as a dog, and with one warning cry he roused the others.
He stood motionless, one hand to his ear.
 "Pirates!" he cried. The others came closer to him. A strange smile was playing about his face, and Wendy saw it and shuddered. While that smile was on his face no one dared address him; all they could do was to stand ready to obey. The order came sharp and incisive.
 "Dive!"
 There was a gleam of legs, and instantly the lagoon seemed deserted. Marooners' Rock stood alone in the forbidding waters as if it were itself marooned.

 ウェンディの頭の中には、これまでに聞いた置き去りの岩に関わる様々な話が浮かび上がってきました。残酷な船長がこの岩に水夫達を置き去りにして、溺れ死にさせるというので、こんな名前がついたのでした。潮が満ちると、この岩は水中に没してしまうのです。
 勿論ウェンディは、すぐさま子供達を起こさなければならなかったのでした。見知らぬものがやってこようとしているからだけでなく、寒くなってきた岩の上でこれ以上眠っているのは、よくないことだったからです。でもウェンディは、まだお母さんとしての経験が浅く、このことに気が付きませんでした。ウェンディが考えたのは、お昼の食事の後は半時間のお休みをとらなければならないということばかりでした。そういう訳で、不安な気持ちが忍び寄ってきて男の子の声を聞きたいと思ったにもかかわらず、ウェンディはみんなを起こしはしませんでした。ウェンディの耳に忍びやかに漕ぐオールの音が聞こえて来た時も、心臓が口から飛び出しそうな思いをしながら、ウェンディはみんなを起こしませんでした。ウェンディは子供達を見下ろしながら、最後までお休みの時間をとらせてやろうとしたのです。なんと勇敢なお母さんではありませんか?
 この時男の子達の中に、眠っていてさえも鋭く危険を察知する力を持つものがいたのは、幸いなことでした。ピーターが飛び起きました。もう番犬のように、しっかりと目を覚ましています。ピーターは戦いを告げる合図の声をあげて、他の子達を起こしました。片手を耳に当て、身動きもしないで立っています。
 「海賊だ。」ピーターは叫びました。子供達は、ピーターを囲んで寄り集まりました。見慣れない無気味な微笑みがピーターの顔に浮かんだのを見て、ウェンディは思わず身震いをしました。ピーターがこんな表情をした時には、誰も声をかけることすら出来ないのです。みんなにできることはといえば、ただ立ち尽くして命令を待つことだけでした。命令は鋭く下されました。
 「水に飛び込め!」
 一瞬だけ子供達の足が目に入り、その後は礁湖全体が全く人気の無い場所であったように思えました。置き去りの岩は、それ自体が置き去りにされたかのように、水の中に取り残されていました。

 辺りの風景に影響を及ぼしていたのは、海賊達の接近という事象であった。海賊の本性たる邪悪さが、全てを不安に陥れる印象的要素として自然物にまで及ぼされるのである。しかし、この“邪悪さ”という印象の波及という形でネバーランドの様相を変化せしめていたものの保持する反転的位相は、実は峻厳たる“清廉潔白”であることが、後に判明することになるのである。

用語メモ
 forbidding:文字通り“forbid”(禁じる)から作られた形容詞形である。印象としては“敵対的な”、“怖い感じの”という意味合いになる。お母さんとして振舞うウェンディの直面せざるを得ない未知の恐怖と、彼女の判断が過ちに導かれる可能性に対する言及と呼応して、世界のあらゆるものが秘める“forbidding”な要素に着目しているのが、このお話のアンチ・ファンタシーとしての特徴であろう。安直なファンタシーが無意識の裡に信奉している、現実の背後に潜む全てを救済してくれる優しい運命に対する期待感は、この物語には全く存在しないのである。




和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◆内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◆「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◆ アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◆ ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中




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