Archive for 12 March 2006

12 March

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 116


 The boat drew nearer. It was the pirate dinghy, with three figures in her, Smee and Starkey, and the third a captive, no other than Tiger Lily. Her hands and ankles were tied, and she knew what was to be her fate. She was to be left on the rock to perish, an end to one of her race more terrible than death by fire or torture, for is it not written in the book of the tribe that there is no path through water to the happy hunting-ground? Yet her face was impassive; she was the daughter of a chief, she must die as a chief's daughter, it is enough.
 They had caught her boarding the pirate ship with a knife in her mouth. No watch was kept on the ship, it being Hook's boast that the wind of his name guarded the ship for a mile around. Now her fate would help to guard it also. One more wail would go the round in that wind by night.
 In the gloom that they brought with them the two pirates did not see the rock till they crashed into it.
 "Luff, you lubber," cried an Irish voice that was Smee's; "here's the rock. Now, then, what we have to do is to hoist the redskin on to it and leave her here to drown."
 It was the work of one brutal moment to land the beautiful girl on the rock; she was too proud to offer a vain resistance.

 ボートは近付いてきました。それは海賊達の使うディンギーで、中には3人の人影が見えました。スミーとスターキーと、それからもう一人は捕虜で、他でもないタイガー・リリーでした。タイガー・リリーは、両手と足首を縛られていました。そして彼女は、自分の運命がどのようなものになるか、よく分かっていました。置き去りの岩の上に捨てられて、溺れ死ぬのです。それはインディアン達にとっては、拷問よりも火刑よりも恐ろしいものでした。何故ならば部族のしきたりの本に、水の中には幸せな狩りの山に至る道は決してないと書かれていたからです。けれどもタイガー・リリーの顔は、平静を保っていました。彼女は酋長の娘でした。酋長の娘らしく死を迎えるのです。それで十分でした。
 海賊達は、彼女が口にナイフをくわえて海賊船に乗り込もうとしているところを、捕らえたのでした。海賊船では、見張りなどはいませんでした。フックの乗る船というだけで1マイル以内の距離に近付くものはいなくなる、というのがフックの自慢でした。今度はタイガー・リリーの悲惨な運命が、その効果をさらに高めることになるでしょう。もう一つの悲鳴が夜風を渡って、フックの悪名をさらに轟かすのです。
 海賊達は自分達の持ち込んだ暗闇のために、目的の岩にぶつかるまでその姿が見えませんでした。
 「うすのろ、風上に向けろ。」アイルランド訛りの声が響きました。それはスミーでした。「よし、岩だ。このインディアン娘を岩の上に放り上げて、ここで溺れ死にさせるんだ。」
 乱暴に一突きするだけで、この美しい娘は岩の上に突き落とされました。無駄な抵抗をするには、タイガー・リリーはあまりにも誇り高かったのです。

 この後に展開されるエピソードを導くための、補助的なエピソードである。従って、もっともらしく語られてはいるが、その具体的な内実は嘘っぽい程に仮構的興趣を増す。ペテン的な語り口のあからさまな提示は、不用意に仮構世界を現実世界と混同されないための誠実な身振りであり、無骨な現実からの乖離が大きい程、その審美的価値を高めるものである。

用語メモ
 dinghy:本来はインド沿岸地方で使用されていた小舟。現代ではヨットの一種、あるいは各種の小型船舶などがこの名で呼ばれる。
 luff:船の船首を風上に向けること。帆船であれば当然推進力を失う。




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 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◆内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



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◆「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
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kuroda@wayo.ac.jp



メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中




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