Archive for 13 March 2006

13 March

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 117


 Quite near the rock, but out of sight, two heads were bobbing up and down, Peter's and Wendy's. Wendy was crying, for it was the first tragedy she had seen. Peter had seen many tragedies, but he had forgotten them all. He was less sorry than Wendy for Tiger Lily: it was two against one that angered him, and he meant to save her. An easy way would have been to wait until the pirates had gone, but he was never one to choose the easy way.
 There was almost nothing he could not do, and he now imitated the voice of Hook.
 "Ahoy there, you lubbers!" he called. It was a marvellous imitation.
 "The captain!" said the pirates, staring at each other in surprise.
 "He must be swimming out to us," Starkey said, when they had looked for him in vain.
 "We are putting the redskin on the rock," Smee called out.
 "Set her free," came the astonishing answer.
 "Free!"
 "Yes, cut her bonds and let her go."
 "But, captain -- "
 "At once, d'ye hear," cried Peter, "or I'll plunge my hook in you."
 "This is queer!" Smee gasped.
 "Better do what the captain orders," said Starkey nervously.
 "Ay, ay." Smee said, and he cut Tiger Lily's cords. At once like an eel she slid between Starkey's legs into the water.

 岩のすぐ近くの海賊達の目に入らないところで、二つの頭が浮き沈みしていました。ピーターとウェンディです。ウェンディは目に涙を浮かべていました。彼女は、生まれて始めて悲劇が演じられるところを目にしたのです。ピーターは、もっと多くの悲劇を目の当たりにしてきました。でもピーターは、全て忘れてしまっていました。ピーターは、ウェンディほどタイガー・リリーのことを可哀想には思っていませんでした。ピーターの気に触ったのは、二人掛かりで一人を殺めようとしていることでした。それでピーターは、タイガー・リリーを助けることにしたのです。海賊達が去ってしまうのを待っていれば、簡単だったでしょう。でもピーターは、決して容易い方のやり方を選ぶようなことはなかったのです。
 ピーターに出来ないことなんて、ほとんどありませんでした。ピーターは、フックの声を真似て語りかけました。
 「おーい、そこの薄のろども。」ピーターは叫びました。見事なフックの声でした。
 「親分だ!」海賊達は、びっくりして顔を見合わせながら言いました。
 「親分は泳いでこちらに向かっているんだ。」しばらくフックの姿を探しても見つからなかったので、スターキーが言いました。
 「インディアン娘は、岩の上に置き去りにしました。」スミーが叫びました。
 「紐を解いてやれ。」驚くような答えが返ってきました。
 「紐を解く!」
 「そうだ。紐を切って、放してやれ。」
 「しかし、親分、、、」
 「さっさとやれ。早くしないと、この鉤爪をぶち込むぞ。」ピーターが叫びました。
 「どうもおかしいぞ。」スミーは喘ぐように言いました。
 「親分の言う通りにした方がいい。」スターキーは、うろたえながら言いました。
 「分かりました。親分。」スミーは言って、タイガー・リリーの紐を切りました。タイガー・リリーは、すぐさまウナギのようにスターキーの足の間をくぐり抜けて、水に飛び込みました。

 ピーターはいかなる経験を経ても、それらによって自らが変化することはない。これは、このお話において繰り返し語られている、ピーターの特質を示す条件なのである。このことが彼をいかなる逡巡からも後悔からも自由にしている。
 この場面でピーターがたやすくフックの声を真似ることが出来た理由は、実はもう一つある。それはこのお話の根幹的主題に深く関わるピーターの秘密であり、上の条件と密接に関連しているものなのである。

用語メモ
 悲劇(tragedy):改めて定義付けるならば“悲劇”とは、あってはならない異常事が現出した場面のことであろう。全ての事柄が本来のあるべき目的性などを保持することなく、ただ無意味に偶然に生成するだけであるならば、そこには“悲劇”という概念あるいは感想も当然抱きようもないことになる。




和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◆内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◆「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◆ アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◆ ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

 平成17年12月21日和洋女子大学にて開催の
“ポエトリー・リーディング”
において行った朗読、「“Frivolous Cake”ム“浮気なケーキ”を読む」をアップロードしました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/speech/cake/cake.html

 “公開講座8” The Last Unicorn『最後のユニコーン』の世界
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/H17E_fest/eibun.htm

論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中











00:00:00 | antifantasy2 | No comments | TrackBacks