Archive for 14 March 2006

14 March

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 118


 Of course Wendy was very elated over Peter's cleverness; but she knew that he would be elated also and very likely crow and thus betray himself, so at once her hand went out to cover his mouth. But it was stayed even in the act, for "Boat ahoy!" rang over the lagoon in Hook's voice, and this time it was not Peter who had spoken.
Peter may have been about to crow, but his face puckered in a whistle of surprise instead.
 "Boat ahoy!" again came the voice.
 Now Wendy understood. The real Hook was also in the water.
He was swimming to the boat, and as his men showed a light to guide him he had soon reached them. In the light of the lantern Wendy saw his hook grip the boat's side; she saw his evil swarthy face as he rose dripping from the water, and, quaking, she would have liked to swim away, but Peter would not budge. He was tingling with life and also top-heavy with conceit. "Am I not a wonder, oh, I am a wonder!" he whispered to her, and though she thought so also, she was really glad for the sake of his reputation that no one heard him except herself.

 当然のこと、ウェンディはピーターの機転に感心してしまいました。けれどもウェンディは、ピーターがいい気になっていつものように笑い声をあげてしまい、正体を暴かれてしまうのではないかとも思いました。ウェンディは急いで手を伸ばし、ピーターの口を押さえようとしました。けれどもその手は、差し伸べる途中で宙に止まってしまいました。というのは、フックの「おーい、ボートはどこだ。」という声が、礁湖の上に響いてきたからです。今度はピーターの発した声ではありませんでした。
 ピーターは、やはり笑い出すところだったのかもしれません。でもその代わりに、ピーターは頬を膨らませて小さく口笛を吹き、驚きの気持ちを示しました。
 「おーい、ボートはどこだ。」また声が響き渡りました。
 ウェンディにも状況が分かりました。本物のフックもやはり、海の中にいるのです。フックは、ボートの方に泳いでやってきました。手下達がランプを灯して導くと、まもなくボートのところにたどり着きました。ランプの光に照らされて、フックの鉤爪がボートの舷に突き立てられるのが見えました。フックが海水をしたたらせながらボートに乗り込む時、ウェンディには彼の邪悪そうな浅黒い顔が目に入りました。体を振るわせながら、ウェンディは泳いで逃げて行ってしまいたいと思いました。けれどもピーターは、動こうとはしませんでした。ピーターは、生気に溢れて自惚れのためにうずうずしているのでした。「僕ってすごいね。本当に、僕ってすごいね。」ピーターは、ウェンディにささやきかけました。ウェンディも確かにそうは思ったのですが、ピーターの評判のことを考えると、彼のこの言葉を耳にする者が他にいなくて、本当に良かったと思いました。

 ウェンディを目撃者として、ピーターと彼の仇敵であるフックの遭遇の様が語られることとなる。そこでこの両者の関係を暗示する、はなはだ興味深い状況が展開するのである。

用語メモ
 conceit:この場合は“自惚れ”である。ピーターは決して後悔したり、反省したりすることはない。全てを自分にとって都合の良い方向から解釈することが出来、しかもその判断は結果として事実に反映することが約束されている。ピーターには、常に自らの優越性に対する喜びに満ちた驚きと感心がある。だから彼の精神は至極健全で、いつも明朗なものであり続けることができる。しかし付き合わされる方は大変である。



和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◆内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◆「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◆ アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◆ ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

 平成17年12月21日和洋女子大学にて開催の
“ポエトリー・リーディング”
において行った朗読、「“Frivolous Cake”ー“浮気なケーキ”を読む」をアップロードしました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/speech/cake/cake.html

 “公開講座8” The Last Unicorn『最後のユニコーン』の世界
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/H17E_fest/eibun.htm

論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中




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