Archive for 15 March 2006

15 March

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 119


 He signed to her to listen.
 The two pirates were very curious to know what had brought their captain to them, but he sat with his head on his hook in a position of profound melancholy.
 "Captain, is all well?" they asked timidly, but he answered with a hollow moan.
 "He sighs," said Smee.
 "He sighs again," said Starkey.
 "And yet a third time he sighs," said Smee.
 Then at last he spoke passionately.
 "The game's up," he cried, "those boys have found a mother."
Affrighted though she was, Wendy swelled with pride.
 "O evil day!" cried Starkey.
 "What's a mother?" asked the ignorant Smee.
 Wendy was so shocked that she exclaimed. "He doesn't know!" and always after this she felt that if you could have a pet pirate Smee would be her one.
 Peter pulled her beneath the water, for Hook had started up, crying, "What was that?"
 "I heard nothing," said Starkey, raising the lantern over the waters, and as the pirates looked they saw a strange sight. It was the nest I have told you of, floating on the lagoon, and the Never bird was sitting on it.
 "See," said Hook in answer to Smee's question, "that is a mother. What a lesson! The nest must have fallen into the water, but would the mother desert her eggs? No."
 There was a break in his voice, as if for a moment he recalled innocent days when -- but he brushed away this weakness with his hook.

 ピーターは、ウェンディに静かに耳をすましているよう、身振りで示しました。
 二人の海賊達は、一体どうして彼等の親分がこちらにやって来たのか、不思議に思いました。けれどもフックは、鉤爪の上に頭を乗せ、深い憂鬱に浸って座り込んでいるのでした。
 「親分、大丈夫ですか?」二人はおずおずと尋ねました。けれどもフックは、虚ろな溜息をつくばかりでした。
 「親分は溜息をついている。」スミーが言いました。
 「また溜息をついた。」スターキーが言いました。
 「また溜息をついた。」スミーが言いました。
 それからようやく、フックは激しい口調で言ったのでした。
 「ゲームは終わった。」吐き捨てるように言いました。「餓鬼共は、母親を見つけてしまった。」ウェンディは怯えながらも、誇らしい気持ちで一杯になりました。
 「なんてひどいことだ。」スターキーが言いました。
 「母親ってのは、何ですか?」無知なスミーが尋ねました。
 ウェンディはあまりの驚きに、思わず叫んでしまいました。「お母さんを知らないの?」そしてウェンディはこの後ずっと、ペットの海賊を持つことができるのなら、スミーを選びたい、と思ったのでした。
 ピーターは、ウェンディを水の中に引きずり込みました。というのは、フックが突然身を起こし。「何だ、これは?」と叫んだからです。
 「何も聞こえませんぜ。」スターキーが、ランプで水面を照らしながら言いました。すると不思議な物が海賊達の目に入ったのでした。それは先程お話しした鳥の巣でした。ネバーバードが卵を抱いたまま、礁湖に浮かんでいたのです。
 「あれを見ろ。」フックは、スミーの問いに答えて言いました。「あれが母親というものだ。ぴったりのお手本じゃないか。この巣は海に落ちてしまったのだ。でも母親は卵を見捨てたりすると思うか?そんなことはない。」
 こういうフックの声は、しばらくの間穢れない心を持っていた頃の記憶が蘇ったかのように、ひび割れていました。けれどもフックは、鉤爪をあげて自分の揺らいだ気持ちをぬぐい去りました。

 フックの心を支配する憂鬱と、彼の母親に対する思いを証言する、幼い頃の出来事が語られようとしてまた中止される。これらはピーターという存在との対照をなす、この海賊の本質的な特性を物語る情報であるのだろう。

用語メモ
 pet pirate:お気に入りにして可愛がる、文字通りの“ペットの海賊”である。先にpet wolfとあったものと同様に、いかなる対象も意識の主体の偏愛に従ってペットとなり得るのである。大胆な言葉の遊びであると共に、観念遊戯から創出されたこの物語の特質を語る傍証ともなっている表現である。




和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◆内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◆「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◆ アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◆ ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

 平成17年12月21日和洋女子大学にて開催の
“ポエトリー・リーディング”
において行った朗読、「“Frivolous Cake”ー“浮気なケーキ”を読む」をアップロードしました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/speech/cake/cake.html

 “公開講座8” The Last Unicorn『最後のユニコーン』の世界
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/H17E_fest/eibun.htm
論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中




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