Archive for 16 March 2006

16 March

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 120


 Smee, much impressed, gazed at the bird as the nest was borne past, but the more suspicious Starkey said, "If she is a mother, perhaps she is hanging about here to help Peter."
 Hook winced. "Ay," he said, "that is the fear that haunts me."
 He was roused from this dejection by Smee's eager voice.
 "Captain," said Smee, "could we not kidnap these boys' mother and make her our mother?"
 "It is a princely scheme," cried Hook, and at once it took practical shape in his great brain. "We will seize the children and carry them to the boat: the boys we will make walk the plank, and Wendy shall be our mother.
 Again Wendy forgot herself.
 "Never!" she cried, and bobbed.
 "What was that?"
 But they could see nothing. They thought it must have been a leaf in the wind. "Do you agree, my bullies?" asked Hook.
 "There is my hand on it," they both said.
 "And there is my hook. Swear."
 They all swore. By this time they were on the rock, and suddenly Hook remembered Tiger Lily.
 "Where is the redskin?" he demanded abruptly.
 He had a playful humour at moments, and they thought this was one of the moments.
 "That is all right, captain," Smee answered complacently; "we let her go."
 "Let her go!" cried Hook.
 "'Twas your own orders," the bo'sun faltered.
 "You called over the water to us to let her go," said Starkey.

 スミーはとても心を動かされて、傍らを流れ過ぎていく巣を見つめていました。けれども、もっと疑り深いスターキーが言いました。「もしもそいつが母親なら、ピーターの手助けをするためにここに来ているんですぜ。」
 フックは、少し怯みました。そして言いました。「そうだ。それが俺の心にのしかかる懸念なのだ。」
 フックは、スミーの勢い込んで語る声を聞いて、浸り込んでいた憂鬱から我に返りました。
 「親分、」スミーは言いました。「この母親をさらって来て、俺たちの母親にするのはどうですか。」
 「それは素晴らしい考えだ。」フックは叫びました。そしてこの考えは、フックの優れた頭の中ですぐさま具体的な計画となって現れたのでした。「餓鬼共を取っ捕まえて、船に連れて行って、板歩きで処刑にしてやろう。そうしてウェンディは、俺たちの母親になるんだ。」
 ここで再び、ウェンディは我を忘れてしまいました。
 「そんなこと!」ウェンディは叫んで、すぐに頭を沈めました。
 「あれは何だ“」
 けれども海賊達には、何も見えませんでした。海賊達は、これは風に吹かれた木の葉が立てた音に違いないと思いました。「お前達、俺の計画に従うか?」フックは尋ねました。
 「この手をかけて誓います。」二人とも言いました。
 「俺もこの鉤爪をかけて誓おう。」
 こうして3人は誓いを立てました。この時には、海賊達は岩の上にあがっていました。そこでフックは、タイガー・リリーのことを思い出しました。
 「インディアン娘はどこだ?」フックは唐突に問いただし始めました。
 フックは、時折ふざけた事を言ってたわむれることがありました。手下達は、これもいつものような冗談に違いないと思いました。
 「何も問題はありません、親分。」スミーは落ち着き払って答えました。「逃がしてやりました。」
 「逃がしただと?」フックが叫びました。
 「親分が命令したのじゃありませんか。」水夫長のスミーは、たじろぎながら答えました。
 「親分が水の中から、奴を逃がせと言いましたぜ。」スターキーも言いました。
 
 海賊の行動原理は略奪して奪うことなので、子供達が母親を所有しているのなら、その母親を奪って自分達のものにすることが出来る。純粋に観念的な思考と発想に基づく、現実とは別世界の出来事が現実世界の陳腐な常識との対照を強く意識して物語られているのが、この奇想天外なお話の特徴である。このような日常性を乖離した仮構世界の要素のことが、“お伽話”、あるいは“漫画”と通例呼ばれることになっている。しかしこの超越的要素の実質が、正しく意識されていることは稀である。

用語メモ
 walk the plank:船の舷側から突き出した板の上に目隠しした捕虜を乗せて歩かせ、海の中に落として溺れ死にさせる、このお話によってあまりにも有名になった海賊達の処刑法である。




和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◆内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◆「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◆ アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◆ ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

 平成17年12月21日和洋女子大学にて開催の
“ポエトリー・リーディング”
において行った朗読、「“Frivolous Cake”ー“浮気なケーキ”を読む」をアップロードしました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/speech/cake/cake.html

 “公開講座8” The Last Unicorn『最後のユニコーン』の世界
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/H17E_fest/eibun.htm
論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中



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