Archive for 17 March 2006

17 March

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 121


 "Brimstone and gall," thundered Hook, "what cozening is going on here!" His face had gone black with rage, but he saw that they believed their words, and he was startled. "Lads," he said, shaking a little, "I gave no such order."
 "It is passing queer," Smee said, and they all fidgeted uncomfortably. Hook raised his voice, but there was a quiver in it.
 "Spirit that haunts this dark lagoon to-night," he cried, "dost hear me?"
 Of course Peter should have kept quiet, but of course he did not. He immediately answered in Hook's voice:
 "Odds, bobs, hammer and tongs, I hear you."
 In that supreme moment Hook did not blanch, even at the gills, but Smee and Starkey clung to each other in terror.
 "Who are you, stranger? Speak!" Hook demanded.
 "I am James Hook," replied the voice, "captain of the JOLLY ROGER."
 "You are not; you are not," Hook cried hoarsely.
 "Brimstone and gall," the voice retorted, "say that again, and I'll cast anchor in you."
 Hook tried a more ingratiating manner. "If you are Hook," he said almost humbly, "come tell me, who am I?"
 "A codfish," replied the voice, "only a codfish."
 "A codfish!" Hook echoed blankly, and it was then, but not till then, that his proud spirit broke. He saw his men draw back from him.
 "Have we been captained all this time by a codfish!" they muttered. "It is lowering to our pride."

 「何だと、畜生め!」フックが怒鳴り声をあげました。「何を企んでやがる!」その顔は、怒りのためにどす黒く変色していました。けれどもフックには、手下達が本気で彼等の言葉を言っているのが分かりました。だから愕然としたのです。「いいか、俺はそんな命令は出していないぞ。」少し震える声で言いました。
 「これはまた、とんでもなく奇妙なことだ。」スミーは言いました。そして二人の手下達は、落ち着かなさそうにもじもじしていました。フックは、大きな声で言いました。でもその声は妙にひび割れた声でした。
 「今宵この礁湖に現われたる精霊よ。俺の声が聞こえるか?」
 勿論、ピーターは返答などしてはなりませんでした。けれども勿論、ピーターは黙っていることなど出来ませんでした。即座にフックの声音を用いて答えたのです。
 「何だと、畜生め。聞こえるとも。」
 この恐ろしい瞬間にさえも、フックの顔色はわずかも青ざめることはありませんでした。けれどもスミーとスターキーは、恐怖のあまり身を寄せ合ったのです。
 「見知らぬ者よ、汝の名を語れ。」フックは問いかけました。
 「俺はジョリー・ロジャー号の船長、ジェイムズ・フックだ。」見知らぬ者の声は答えました。
 「嘘だ、嘘だ。」フックはかすれた声で答えました。
 「何だと、畜生め。」声が反ってきました。「もう一度言ってみろ、この鉤爪を突き立ててやるぞ。」
 フックは、思わずこれまでよりも卑屈な態度を取って言いました。「もしもあなたがフックなら、この俺は何なのです。言ってくれはしないか。」ほとんど取り入るような話し方でした。
 「お前は鱈だ。」返答が反ってきました。「ただの鱈だ。」
 「俺が鱈だと!フックは、我を忘れてつぶやきました。この時初めてフックは誇りを失いかけたのです。フックの目には、手下の二人が身を引こうとしているのが映りました。
 「おれたちはずっと、鱈なんかに指図されてきたのか。」二人はつぶやきました。「なんと惨めなことだ。」

 ピーターはこの場面で、自分をキャプテン・フックであると言う。実はピーターは、明白に自分の正体を語っているのである。このお話の隠された主題を読み取る鍵となるエピソードである。

用語メモ
 ingratiating:相手に取り入るような(態度)
 humbly:身を低めるような、卑屈な(態度)
  意味を交換して訳してみた。




和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◆内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◆「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◆ アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◆ ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

 平成17年12月21日和洋女子大学にて開催の
“ポエトリー・リーディング”
において行った朗読、「“Frivolous Cake”ー“浮気なケーキ”を読む」をアップロードしました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/speech/cake/cake.html

 “公開講座8” The Last Unicorn『最後のユニコーン』の世界
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/H17E_fest/eibun.htm
論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中



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