Archive for 18 March 2006

18 March

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 122


 They were his dogs snapping at him, but, tragic figure though he had become, he scarcely heeded them. Against such fearful evidence it was not their belief in him that he needed, it was his own. He felt his ego slipping from him. "Don't desert me, bully," he whispered hoarsely to it.
 In his dark nature there was a touch of the feminine, as in all the great pirates, and it sometimes gave him intuitions. Suddenly he tried the guessing game.
 "Hook," he called, "have you another voice?"
 Now Peter could never resist a game, and he answered blithely in his own voice, "I have."
 "And another name?"
 "Ay, ay."
 "Vegetable?" asked Hook.
 "No."
 "Mineral?"
 "No."
 "Animal?"
 "Yes."
 "Man?"
 "No!" This answer rang out scornfully.
 "Boy?"
  "Yes."
 "Ordinary boy?"
 "No!"
 "Wonderful boy?"
 To Wendy's pain the answer that rang out this time was "Yes."
 "Are you in England?"
 "No."
 "Are you here?"
 "Yes."

 この手下共は、今飼い主の手に噛み付こうとしているのでした。でも悲惨な状況に陥りはしても、フックはこんな連中のことはどうでも良かったのです。恐ろしい事実を突き付けられて、フックが必要としたのは手下共の信頼ではなく、自分自身への信頼でした。「俺を見捨てないでくれよ、兄弟。」フックはかすれた声でつぶやきました。
 この海賊の不思議な心の中には、女性的な感性がありました。偉大な海賊というものは皆そうなのです。その力が時々フックに優れた直観力を与えてくれました。突然、フックは当てっこ遊びをすることを思い付いたのです。
 「フックよ、」フックは呼び掛けました。「お前は別の声を持っているか?」
 ピーターは面白い遊びとなると、参加せずにはいられないのでした。弾んだ声ですぐさま「勿論。」と答えました。
 「別の名前もあるな?」
 「その通り。」
 「植物か?」
 「違う。」
 「鉱物か?」
 「違う。」
 「動物だな?」
 「その通り。」
 「人間か?」
 「大人なんかじゃないぞ。」馬鹿にしたような声でした。
 「子供か?」
 「そうだ。」
 「普通の子供か?」
 「まさか。」
 「すごい子供だな?」
ウェンディが心配したにも関わらず、ピーターは大きな声で「その通り。」と答えたのでした。
 「今イギリスにいるか?」
 「いいや。」
 「ここにいるんだな?」
 「そうだ。」

 フックを名乗るものの声に自分のことを鱈だと決めつけられて、フックはこの場面で自我の喪失の危機に瀕している。実はこのエピソードも、この物語のより深い真実を隠蔽するための、ダミーとして語られたものである。
 偉大な海賊達が皆女性的直観に恵まれているとされることは、この作品における海賊という存在の意義を考察する上で興味深い。自省力を有した才能と教養有る真の知識人こそが、海賊を名乗る者達なのである。
 見知らぬものの正体を暴くためにフックの採用した範疇別消去法の確かさは、彼の論理的思考能力のずば抜けた優越性を証明するものであるが、そればかりでなく彼が女性的な直観的洞察力にも充分に恵まれていることは、この後の展開に見る通り明らかである。
 ピーターは大人(man)になることを峻厳と拒否するので、自分が“man”ではないと答えるが、彼の返答は同時に自分が人間としては存在しないこと、つまり非在という特質を有した特別の人間であることを語っている。

用語メモ
 intuition:“直観力”である。制約ある単なる論理的思考の能力を越えた、極限の真実そのものを直証する超越的能力としてロマン主義哲学において認められた、特殊な霊的能力である。




和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◆内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◆「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◆ アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◆ ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

 平成17年12月21日和洋女子大学にて開催の
“ポエトリー・リーディング”
において行った朗読、「“Frivolous Cake”ー“浮気なケーキ”を読む」をアップロードしました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/speech/cake/cake.html

 “公開講座8” The Last Unicorn『最後のユニコーン』の世界
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/H17E_fest/eibun.htm
論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中



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