Archive for 21 March 2006

21 March

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 125


 Some of the greatest heroes have confessed that just before they fell to they had a sinking. Had it been so with Peter at that moment I would admit it. After all, he was the only man that the Sea-Cook had feared. But Peter had no sinking, he had one feeling only, gladness; and he gnashed his pretty teeth with joy. Quick as thought he snatched a knife from Hook's belt and was about to drive it home, when he saw that he was higher up the rock than his foe. It would not have been fighting fair. He gave the pirate a hand to help him up.
 It was then that Hook bit him.
 Not the pain of this but its unfairness was what dazed Peter. It made him quite helpless. He could only stare, horrified. Every child is affected thus the first time he is treated unfairly. All he thinks he has a right to when he comes to you to be yours is fairness. After you have been unfair to him he will love you again, but will never afterwards be quite the same boy. No one ever gets over the first unfairness; no one except Peter. He often met it, but he always forgot it. I suppose that was the real difference between him and all the rest.
 So when he met it now it was like the first time; and he could just stare, helpless. Twice the iron hand clawed him.

 偉大な英雄達の何人かが、戦い始める前に気後れを感じたことを告白しています。もしもこの時ピーターもそうだあったならば、私もそれを認めねばなりません。何といっても、この相手はクック船長さえ怖れた程の人物なのです。けれどもピーターは、気後れなど全くなかったのです。ピーターの感じることのできる気持ちは一つだけで、それは喜びでした。ピーターは歓喜に満ちて口許をほころばせました。風のように素早く、ピーターはフックのベルトからナイフを引き抜き、敵の体に突き立てようとしました。でもその時ピーターは、自分が敵よりも高いところに位置しているのに気が付きました。これではフェアな戦いとは言えません。ピーターはフックに手を貸してやろうと、片手を差し出しました。
 その時です。フックがピーターに斬りつけたのは。
 負わされた傷の痛みではなく、この攻撃の卑怯さがピーターを幻惑させました。どうしようもない程、意気をそがれてしまったのです。愕然として敵を見つめるだけでした。全ての子供が、初めて卑劣な仕打ちを受けた時、このような気持ちを味わわされるのです。子供と言うものは、誰を相手にする時でも、公正な扱いを受けるのが当然だと、固く信じています。その子の気持ちを裏切ってしまっても、再びその子に愛してもらうことはできます。けれどもその子は、もうこれまでと同じ子供ではいられないのです。誰も、初めて被った不当な扱いから立ち直ることは出来ないのです。ピーターだけを除いては。ピーターは、何度も不当な仕打ちに遭ったことがありました。けれども、いつも忘れてきたのです。それが、ピーターと他の子供達の本当の違いじゃないかと思うのです。
 そういう訳で、この時もまた初めて受けた卑劣な仕打ちと同様でした。ピーターは唖然として、目を見開いているばかりでした。再び、鉄の鉤爪がピーターを襲いました。

 成長する過程で世界によって必ず与えられることになる卑劣で不当な仕打ちと、全ての子供が覚える愕然とした困惑は、はなはだ哀切なこの世界と我々の生の実相に対する指摘となっている。しかしピーターだけはこの体験を忘れてしまい、決して変化することがないと語られているのである。ピーターという存在の秘密を解く鍵の一つである。

用語メモ
 unfairness:単なる試合やゲームを行う際の、ルールを違反した卑怯な振る舞いのみではない。心の底でなされる判断において、あるべき当然の姿と思われるものとは異なった理不尽な姿を、実際に我々の生きている現実世界がとってしまうという苛酷な事実のやるせない認識が、この言葉で語られているのであろう。





和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◆内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◆「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◆ アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◆ ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

 平成17年12月21日和洋女子大学にて開催の
“ポエトリー・リーディング”
において行った朗読、「“Frivolous Cake”ー“浮気なケーキ”を読む」をアップロードしました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/speech/cake/cake.html

 “公開講座8” The Last Unicorn『最後のユニコーン』の世界
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/H17E_fest/eibun.htm
論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中











00:00:00 | antifantasy2 | No comments | TrackBacks