Archive for 22 March 2006

22 March

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 126


 A few moments afterwards the other boys saw Hook in the water striking wildly for the ship; no elation on the pestilent face now, only white fear, for the crocodile was in dogged pursuit of him. On ordinary occasions the boys would have swum alongside cheering; but now they were uneasy, for they had lost both Peter and Wendy, and were scouring the lagoon for them, calling them by name. They found the dinghy and went home in it, shouting "Peter, Wendy" as they went, but no answer came save mocking laughter from the mermaids. "They must be swimming back or flying," the boys concluded. They were not very anxious, because they had such faith in Peter. They chuckled, boylike, because they would be late for bed; and it was all mother Wendy's fault!
 When their voices died away there came cold silence over the lagoon, and then a feeble cry.
 "Help, help!"
 Two small figures were beating against the rock; the girl had fainted and lay on the boy's arm. With a last effort Peter pulled her up the rock and then lay down beside her. Even as he also fainted he saw that the water was rising. He knew that they would soon be drowned, but he could do no more.

このわずか後、他の少年達は、フックがあわてて船の方に泳いでいくのを目にしました。彼の邪悪な顔には勝ち誇った表情は無く、恐怖のために蒼白になっていました。何故なら、あの鰐が彼の後を追っていたからです。いつもなら子供達は、囃し声を立てながら着いていったことでしょう。けれどもこの時は、子供たちも落ち着かない気持ちになっていたのでした。ピーターとウェンディの二人の姿が見えなくなってしまって、二人の名前を呼びながら礁湖を探し回っているところだったのです。子供たちはディンギーを見つけて、これに乗り込んで戻ることにしました。「ピーター。ウェンディ。」と叫びながらボートを漕いでいきましたが、人魚達のからかうような笑い声が聞こえてくるだけで、二人の答えはありませんでした。
「ピーター達は、空を飛ぶか泳ぐかして、家に戻ってるんだ。」子供たちはそう考えました。彼等はピーターの力を信じきっていたので、彼のことをあまり心配してはいなかったのです。ウェンディお母さんのせいで床に着く時間が遅れてしまいそうなので、男の子らしくくすくす笑いさえしていたのです。
子供たちの声が遠くに離れていった時、礁湖の上にはひんやりとした沈黙が訪れました。そして消え入りそうな声が響いてきました。
「助けて、助けて。」
 小さな人影が二つ、岩の脇で波に揺られていました。男の子が、気を失った女の子の体を、腕で支えているのでした。ピーターは最後の力を振り絞って、ウェンディを岩の上に引っ張り上げ、傍らに崩れ落ちました。自分もまた気を失いながら、ピーターは潮が満ちてきているのに気がつきました。このままだと二人とも溺れてしまうのは、分かっていました。でも、どうしようもなかったのです。

瑣末な偶然の影響を受けて運命が左右され、それぞれの限られた視点のために状況の判断が異なったものとなり、立場の違いのために誤解や思い違いが生起する。中心的原理を失った後のあるがままの現実の示す過酷な実相が、気まぐれでとりとめのない仮構世界のさらに内部の主観の世界にも影響を及ぼしているのである。

用語メモ
 瑣末性(trivialism):普遍的な原理や価値観が失われた状況では、些細な偶発的な事柄に左右されて、様々な重大な変化や事件が実際に結果として及ぼされ得る。気高い目的性を裏付けるべき運命的な意味性を喪失した、現代社会の現実認識の根幹となっている世界観である。“交通事故”という言葉に象徴される感覚であろう。





和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課 
◆内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◆「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◆ アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◆ ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/


 平成17年12月21日和洋女子大学にて開催の
“ポエトリー・リーディング”
において行った朗読、「“Frivolous Cake”ー“浮気なケーキ”を読む」をアップロードしました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/speech/cake/cake.html

 “公開講座8” The Last Unicorn『最後のユニコーン』の世界
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/H17E_fest/eibun.htm


論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中



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