Archive for 23 March 2006

23 March

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 127


 As they lay side by side a mermaid caught Wendy by the feet, and began pulling her softly into the water. Peter, feeling her slip from him, woke with a start, and was just in time to draw her back. But he had to tell her the truth.
"We are on the rock, Wendy," he said, "but it is growing smaller. Soon the water will be over it."
 She did not understand even now.
 "We must go," she said, almost brightly.
 "Yes," he answered faintly.
 "Shall we swim or fly, Peter?"
 He had to tell her.
 "Do you think you could swim or fly as far as the island, Wendy, without my help?"
 She had to admit that she was too tired.
 He moaned.
 "What is it?" she asked, anxious about him at once.
 "I can't help you, Wendy. Hook wounded me. I can neither fly nor swim."
 "Do you mean we shall both be drowned?"
 "Look how the water is rising."
 They put their hands over their eyes to shut out the sight. They thought they would soon be no more. As they sat thus something brushed against Peter as light as a kiss, and stayed there, as if saying timidly, "Can I be of any use?"
 It was the tail of a kite, which Michael had made some days before. It had torn itself out of his hand and floated away.

 二人が並んで横たわっていると、一匹の人魚がウェンディの足をつかんで、そっと水の中に引きずりこもうとしました。ピーターは、ウェンディの体が離れていくのに気づいて目を覚まし、何とか引き戻すことができました。でもピーターは、ウェンディにつらい状況にあることを語らねばなりませんでした。
「僕たちは、今は岩の上にいる。でもこの岩はどんどん小さくなってきて、まもなく水の下に沈んでしまうんだ。」ピーターは言いました。
ウェンディは、まだよく飲み込めていませんでした。
「じゃあ、早く行かなきゃ。」ウェンディは、何の心配もなさそうに言いました。
「そうなんだ。」ピーターは、弱々しく言いました。
「泳ぐの?それとも飛んでいくの?ピーター。」
ピーターは、ウェンディに言わねばなりませんでした。
「自分一人で、島まで泳ぐか飛ぶかして、たどり着けるかい?ウェンディ。」
ウェンディはとても疲れているので、それはできそうにありません。
ピーターは、ため息をつきました。
「どうしたの?」ピーターを気づかって、ウェンディがたずねました。
「君を島まで連れていってあげることは、できないんだ。フックに傷を負わされてしまった。飛ぶことも、泳ぐこともできない。」
「じゃあ、二人とも溺れてしまうの?」
「ほら、潮が満ちてきている。」
「二人は両手で目をふさいで、水が目に入らないようにしました。」このまま死んでしまうのだと、覚悟を決めました。ところがこうして座り込んでいると、何かがそっとキスでもするようにピーターの体に触れて、止まりました。「何か手伝ってあげることができるかい?」おずおずと、そう言っているかのようでした。
それは凧の足でした。何日か前に、マイケルが作ったものです。マイケルの手から離れて、飛んでいってしまっていたのでした。

このお話に登場する人魚は、あくまでも子供たちに対して心を開くことはなく、むしろ敵対的な態度を示して、ウェンディを溺れさせようとさえする。伝統的な魑魅魍魎の類いとしての妖精(fairy)の感覚を色濃く残しているのが、このお話の中で描かれている人魚達である。

用語メモ
人魚(mermaid):“mer”は“海”、“maid”は“娘”。“マーメイド”は当然女である。男の人魚は“merman”という。広い意味でのフェアリーの一種であった。シェトランド諸島近辺に多くいたと言われている。




和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課 
◆内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◆「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◆ アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◆ ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/


 平成17年12月21日和洋女子大学にて開催の
“ポエトリー・リーディング”
において行った朗読、「“Frivolous Cake”ー“浮気なケーキ”を読む」をアップロードしました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/speech/cake/cake.html

 “公開講座8” The Last Unicorn『最後のユニコーン』の世界
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/H17E_fest/eibun.htm

論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中



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