Archive for 24 March 2006

24 March

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 128


 "Michael's kite," Peter said without interest, but next moment he had seized the tail, and was pulling the kite toward him.
 "It lifted Michael off the ground," he cried; "why should it not carry you?"
 "Both of us!"
 "It can't lift two; Michael and Curly tried."
 "Let us draw lots," Wendy said bravely.
 "And you a lady; never." Already he had tied the tail round her. She clung to him; she refused to go without him; but with a "Good-bye, Wendy," he pushed her from the rock; and in a few minutes she was borne out of his sight. Peter was alone on the lagoon.
 The rock was very small now; soon it would be submerged. Pale rays of light tiptoed across the waters; and by and by there was to be heard a sound at once the most musical and the most melancholy in the world: the mermaids calling to the moon.
 Peter was not quite like other boys; but he was afraid at last. A tremour ran through him, like a shudder passing over the sea; but on the sea one shudder follows another till there are hundreds of them, and Peter felt just the one. Next moment he was standing erect on the rock again, with that smile on his face and a drum beating within him. It was saying, "To die will be an awfully big adventure."

「マイケルの凧だ。」ピーターはあまり関心もなく言いました。でも次の瞬間、ピーターは凧の足を掴んで、凧を引き寄せていました。
 「これはマイケルを空に飛ばせたぞ。」ピーターは叫びました。「ウェンディだって飛ばせるかもしれない。」
「二人とも飛ばせない?」
「二人はだめなんだ。マイケルとカーリーでやってみた。」
「じゃあ、くじを引きましょう。」
「だめだ。女の子が先だ。」すでにピーターは、凧の足をウェンディの体に結びつけていました。ウェンディは、ピーターにしがみつきました。ピーターを残してはいけない、と言いました。けれども「さよなら、ウェンディ。」と言うと、ピーターはウェンディを押し出しました。まもなく、ウェンディは目の届かないところまで飛んでいってしまいました。ピーターは礁湖に一人取り残されました。
岩はもうとても小さくなっていました。もうすぐ水に飲まれてしまうでしょう。水面を青い光の帯が忍び寄ってきました。そしてまもなく、世界でもっとも美しく、そして悲しげな声が聞こえてくることでしょう。それは人魚達が月に歌いかける声なのです。
ピーターは、他の子供たちとは違っていました。でもピーターも、最後に怖くなってきました。体を身震いが走りました。それは海の上を走ってくるざわめきにも似ています。けれども海のざわめきは次から次へとやってきて、何百もの波が押し寄せます。ピーターがこれを感じたのは一回きりでした。次の瞬間には、ピーターはまた岩の上にすっくと立ち上がっていました。いつものようなほほ笑みを浮かべ、体の内側からはドラムが鳴り響くように、力強い鼓動が感じられました。それは語っていました。「死ぬってことは、途轍も無い冒険だ。」

不安や躊躇が自己の行動原理に対する疑念を生み出すことは決してなく、常に限りない満足と果てしない自賛に導かれるのが、ピーターの精神の特徴である。これは、ピーターの存在自体が自省とは正反対の原理に基づいてからである。スピノザ的充足とニーチェ的実存のカリカチュアのようにも思われる。

用語メモ
 “To die will be an awfully big adventure.”:揺るぎない主観的判断から得られる実存的得心の一つの典型である。劇『ピーター・パン』のプロデューサーとなったアメリカ人の富豪が、タイタニック号で遭難した時にピーターのこの台詞を引用したと言われている。




和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課 
◆内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◆「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◆ アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◆ ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/


 平成17年12月21日和洋女子大学にて開催の
“ポエトリー・リーディング”
において行った朗読、「“Frivolous Cake”ー“浮気なケーキ”を読む」をアップロードしました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/speech/cake/cake.html

 “公開講座8” The Last Unicorn『最後のユニコーン』の世界
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/H17E_fest/eibun.htm

論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中



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