Archive for 25 March 2006

25 March

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 129


Chapter 9
THE NEVER BIRD

 The last sound Peter heard before he was quite alone were the mermaids retiring one by one to their bedchambers under the sea. He was too far away to hear their doors shut; but every door in the coral caves where they live rings a tiny bell when it opens or closes (as in all the nicest houses on the mainland), and he heard the bells.
 Steadily the waters rose till they were nibbling at his feet; and to pass the time until they made their final gulp, he watched the only thing on the lagoon. He thought it was a piece of floating paper, perhaps part of the kite, and wondered idly how long it would take to drift ashore.
 Presently he noticed as an odd thing that it was undoubtedly out upon the lagoon with some definite purpose, for it was fighting the tide, and sometimes winning; and when it won, Peter, always sympathetic to the weaker side, could not help clapping; it was such a gallant piece of paper.
 It was not really a piece of paper; it was the Never bird, making desperate efforts to reach Peter on the nest. By working her wings, in a way she had learned since the nest fell into the water, she was able to some extent to guide her strange craft, but by the time Peter recognised her she was very exhausted. She had come to save him, to give him her nest, though there were eggs in it. I rather wonder at the bird, for though he had been nice to her, he had also sometimes tormented her. I can suppose only that, like Mrs. Darling and the rest of them, she was melted because he had all his first teeth.

 ピーターが完全に一人きりになる前に最後に耳にしたのは、人魚達が海の底の寝室に戻っていく物音でした。あまりに遠くだったので、扉の閉まる音を聞くことはできませんでした。けれども人魚達の住む珊湖の洞穴では、どの扉も開けたり閉めたりする時に小さな鐘が鳴るのです。(人間の世界の最高にいいお家と同じです。)ピーターはこの鐘の音を耳にしたのです。
 じわじわと水面は上がってきて、今はもうピーターの足下を洗っていました。ピーターは水に呑み込まれてしまうまで、ひまつぶしに礁湖にひとつだけ浮かんでいるものに目を向けていました。ピーターはそれが紙切れが浮かんでいるものと思っていました。おそらく凧の一部でしょう。岩まで流れ着くのにどのくらいかかるのだろう、とぼんやりと考えていたのです。
 でも今は、おかしなことに気づきました。それは流れに逆らって逆の方向に進んで来るのです。何か意図があって乗り出してきたみたいです。ピーターはいつも弱い者の味方だったので、流れに負けないで進んできた時には思わず手を叩いてしまいました。相当な頑張り屋の紙切れです。
 実はそれは、紙切れなんかではありませんでした。それはネバーバードだったのです。水に浮かんだ巣をピーターの方に近づけようと、懸命になっているのでした。巣が水の中に落ちて以来覚えたやり方で、翼で漕いで、いくらか思い通りにこのへんてこな船を動かすことができるようになっていたのです。でもピーターが気がついた頃には、もうネバーバードは疲れ切っていました。ネバーバードは、ピーターを助けに来たのです。卵が中に入っているにもかかわらず、ピーターに巣を渡そうとしていたのです。これは、かなり驚いたことです。ピーターはこの鳥に優しくしたことはあったものの、時々はひどい目に遭わせたこともあったからです。たぶんダーリング夫人や他のお母さん達の時と同じように、ピーターの乳歯に心を溶かされてしまったとしか言い様がありません。

 都合よくネバーバードがピーターを助けにやって来る。凧に乗ってウェンディが飛んでいくというのは、いかにも嘘っぽかったが、ネバーバードの場合は、ピーターの乳歯の魅力に逆らうことのできないお母さん達一般の本性として、ピーターの重要な特質と密接に関わるエピソードを形成している。

用語メモ
 nibble:歯で“噛る”ことである。次の“gulp”(呑み込む)と並んで、海によって捕食され、食い殺されるイメージを形成している。すべてが互いにハートレスで非情な態度を隠さない、現実の苛酷な一面が忘れられることなく描かれている。しかしピーターだけは、不公平にもこの運命から免れているのである。




和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課 
◆内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◆「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◆ アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◆ ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/


 平成17年12月21日和洋女子大学にて開催の
“ポエトリー・リーディング”
において行った朗読、「“Frivolous Cake”ー“浮気なケーキ”を読む」をアップロードしました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/speech/cake/cake.html

 “公開講座8” The Last Unicorn『最後のユニコーン』の世界
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/H17E_fest/eibun.htm

論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中




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