Archive for 26 March 2006

26 March

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 130


 She called out to him what she had come for, and he called out to her what she was doing there; but of course neither of them understood the other's language. In fanciful stories people can talk to the birds freely, and I wish for the moment I could pretend that this were such a story, and say that Peter replied intelligently to the Never bird; but truth is best, and I want to tell you only what really happened. Well, not only could they not understand each other, but they forgot their manners.
 "I -- want -- you -- to -- get -- into -- the -- nest," the bird called, speaking as slowly and distinctly as possible, "and-- then -- you -- can -- drift -- ashore, but -- I -- am -- too -- tired -- to -- bring -- it -- any -- nearer -- so -- you --must -- try -- to -- swim -- to -- it."
 "What are you quacking about?" Peter answered. "Why don't you let the nest drift as usual?"
 "I -- want -- you -- " the bird said, and repeated it all over.
 Then Peter tried slow and distinct.
 "What -- are -- you -- quacking -- about?" and so on.
 The Never bird became irritated; they have very short tempers.
 "You dunderheaded little jay," she screamed, "Why don't you do as I tell you?"
 Peter felt that she was calling him names, and at a venture he retorted hotly:
 "So are you!"
 Then rather curiously they both snapped out the same remark:
 "Shut up!"
 "Shut up!"

 ネバーバードは、何のためにここまでやって来たのか、大声で語りました。ピーターも大きな声をあげて、こんなところで何をしているのか尋ねました。でも当然ながら、どちらも相手の言っていることが分からないのでした。気まぐれなお伽話の中でなら、人間がたやすく鳥達とお話をすることができたりします。しばらくの間このお話もそんなお話の一つであるような振りをして、ピーターが鳥の言葉をきちんと理解して返事をすることができたことにしてみたい、とも思います。でも本当の事を語るのが一番大事です。ですから実際に起こった通りにお話しましょう。どちらも相手の言うことを理解することができなかったばかりでなく、どちら共癇癪を起こしてしまうことになったのです。
 「巣の、中に、入って、ちょうだい。」ネバーバードは出来るだけゆっくりと、そしてはっきりと声を出して言いました。「そうしたら、岸まで、乗って、いける、でしょう。でも、私は、疲れて、しまって、もう、この巣を、近づける、ことが、できないの。泳いで、ここまで、来て、ちょうだい。」
 「何をがあがあ言ってるんだい?」ピーターは答えました。    「どうしていつものように浮かんでいないんだい?」
 「巣の、中に、入って、」ネバーバードは、もう一度始めから繰り返しました。
 ピーターもゆっくりと、はっきりと言い直しました。
 「何を、があがあ、言って、いるの、だい?」こんな風です。
ネバーバードは、いらいらしてきました。彼等はとても気が短いのです。
 「このとんまな小鳥め!」ネバーバードは、怒鳴りました。「どうして、言う通りにしないの。」
 ピーターは、自分が怒鳴られているのが分かりました。そして、同じように怒鳴り返しました。
 「お前の方こそ!」
 それからおかしなことに、二人は同じ言葉を互いにぶつけ合ったのです。
 「黙れ!」
 「黙れ!」

 お話の語り方についてお話の中で語るのは、典型的なメタフィクションの構図となっている。よくあるお伽話のパターンを“fanciful”な話と呼んでいるのは、作者の類型的なファンタシー文学に対立する意識的なスタンスが現れている。容易く得られる理解や協調などは、この物語には描かれていない。むしろ生ける物同士の不和や争いの方が、バリ独特のこの“fanciful”な作品の中心的な主題となっているのである。ファンタシーの類型自体を明らかに自覚した作品世界提示の手法は、“アンチ・ファンタシー”という特有の範疇を形成することになる。

用語メモ
 fanciful:“fancy”=“きまぐれ”、“他愛のないこと”の形容詞形である。“fancy”は“fantasy”と語源を同じくする言葉である。“fantasy”は、“幻影”、“幻”等の意味のギリシア語が語源であった。




和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課 
◆内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◆「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◆ アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◆ ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/


 平成17年12月21日和洋女子大学にて開催の
“ポエトリー・リーディング”
において行った朗読、「“Frivolous Cake”ー“浮気なケーキ”を読む」をアップロードしました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/speech/cake/cake.html

 “公開講座8” The Last Unicorn『最後のユニコーン』の世界
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/H17E_fest/eibun.htm

論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中










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