Archive for 27 March 2006

27 March

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 131


 Nevertheless the bird was determined to save him if she could, and by one last mighty effort she propelled the nest against the rock. Then up she flew; deserting her eggs; so as to make her meaning clear.
Then at last he understood, and clutched the nest and waved his thanks to the bird as she fluttered overhead. It was not to receive his thanks, however, that she hung there in the sky; it was not even to watch him get into the nest; it was to see what he did with her eggs.
There were two large white eggs, and Peter lifted them up and reflected. The bird covered her face with her wings, so as not to see the last of them; but she could not help peeping between the feathers.
 I forget whether I have told you that there was a stave on the rock, driven into it by some buccaneers of long ago to mark the site of buried treasure. The children had discovered the glittering hoard, and when in a mischievous mood used to fling showers of moidores, diamonds, pearls and pieces of eight to the gulls, who pounced upon them for food, and then flew away, raging at the scurvy trick that had been played upon them. The stave was still there, and on it Starkey had hung his hat, a deep tarpaulin, watertight, with a broad brim. Peter put the eggs into this hat and set it on the lagoon. It floated beautifully.
The Never bird saw at once what he was up to, and screamed her admiration of him; and, alas, Peter crowed his agreement with her. Then he got into the nest, reared the stave in it as a mast, and hung up his shirt for a sail. At the same moment the bird fluttered down upon the hat and once more sat snugly on her eggs. She drifted in one direction, and he was borne off in another, both cheering.

 それにも関わらず、ネバーバードはどうしてもピーターを助けてやることに決めていたのでした。最後の力を振り絞ると、彼女は巣を岩の方に近づけました。そして卵を捨てて空に飛び立ったのです。自分の気持ちをはっきりと伝えるためです。
 ようやくピーターも意味が分かりました。巣を掴むと、頭の上を飛んでいるネバーバードに手を振って、感謝の気持ちを告げました。けれどもネバーバードが飛び立っていかなかったのは、ピーターの合図を受け取るためではありませんでした。ピーターが確かに巣に乗り込むかどうかを見届けるためでもありませんでした。ピーターが卵をどうするか、確かめたかったのです
 巣の中には、二つの大きな卵がありました。ピーターはこの卵を手に取って、考え込みました。ネバーバードは、翼で目を覆いました。卵の最後を見たくなかったからです。けれども彼女は、翼の間から透かして見ずにはいられませんでした。
 もうお話したかどうか忘れてしまったのですが、岩には一本の杭が打ち込まれていました。昔、海賊が埋めた宝の在りかを示すために行ったことです。子供たちはきらきら光る金貨を見つけ、はしゃぎ回ってモイドール金貨やダイアモンドや真珠やスペイン銀貨などを、カモメに浴びせかけたのでした。カモメ達は食べ物だと思って飛びかかったのですが、質の悪い悪戯に気分を害して飛び去ってしまったのです。杭はまだそこにありました。この杭の上にスターキーは、彼の帽子をかけていたのです。防水加工をした帆布製の深い幅広の帽子でした。ピーターは卵をこの帽子の中に入れて、水に浮かべました。帽子は見事に浮かびました。
 ネバーバードはピーターの仕草を見て、彼が何をしようとしているか、即座に理解しました。そして大きな声をあげて、ピーターの行為を讚えました。そして何と、ピーターも一緒になって歓声をあげたのです。それからピーターは、巣に乗り込みました。杭をマストのように立てて、シャツを帆の替りに張りました。それと同時にネバーバードは帽子の上に飛び降りて、心地よく卵を抱くことができたのでした。こうして二人とも上機嫌で、ネバーバードは潮に流されていき、ピーターは反対の方角に流されていきました。

 既に語ったどうかを話題として持ち出すことによってストーリーの語りを進めるという、ひねりを加えた語りの技法が用いられている。作者バリは様々の語りの手法を利用して、特有の仮構世界のプレゼンテーションを図っている。そしてこのメタフィクション的手法が、フックによって傷を負わされたという事実が、単に飛ぶことも泳ぐことも出来ないという条件にすり替えられ、怪我を負わされたことの生命に関わる重大さを隠蔽するペテン的記述を援護することに役立っている。ピーター自身のメイク・ビリーブによって生成している心の中の世界を特徴づけるものとして、この種のペテン的言説はこの物語の重要な要素となっているのである。

用語メモ
 ペテン的記述:仮構としての物語世界を成り立たせる基本条件として、現実世界の制約をあからさまに無視した、あり得ない出来事が意図的に描かれることをこう呼ぶことにする。メ非在性の記述モとして指摘されることもある。別な側面から見れば、メ漫画的記述モとも語られる特質である。この種の荒唐無稽は、純然たる仮構としての仮構世界の記述を正しく読み取ることのできる極めて知的な一部の読者にしか理解できない、ある特有の仮構作品の重要な特質となっているものと見做すべき要素なのである。




和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課 
◆内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◆「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◆ アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◆ ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/


 平成17年12月21日和洋女子大学にて開催の
“ポエトリー・リーディング”
において行った朗読、「“Frivolous Cake”ー“浮気なケーキ”を読む」をアップロードしました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/speech/cake/cake.html

 “公開講座8” The Last Unicorn『最後のユニコーン』の世界
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/H17E_fest/eibun.htm

論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中




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