Archive for 28 March 2006

28 March

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 132


 Of course when Peter landed he beached his barque in a place where the bird would easily find it; but the hat was such a great success that she abandoned the nest. It drifted about till it went to pieces, and often Starkey came to the shore of the lagoon, and with many bitter feelings watched the bird sitting on his hat. As we shall not see her again, it may be worth mentioning here that all Never birds now build in that shape of nest, with a broad brim on which the youngsters take an airing.
 Great were the rejoicings when Peter reached the home under the ground almost as soon as Wendy, who had been carried hither and thither by the kite. Every boy had adventures to tell; but perhaps the biggest adventure of all was that they were several hours late for bed. This so inflated them that they did various dodgy things to get staying up still longer, such as demanding bandages; but Wendy, though glorying in having them all home again safe and sound, was scandalised by the lateness of the hour, and cried, "To bed, to bed," in a voice that had to be obeyed. Next day, however, she was awfully tender, and gave out bandages to every one, and they played till bed-time at limping about and carrying their arms in slings.

 もちろんピーターは陸に着いた時、もらった船をネバーバードがたやすく見つけることのできるところに引き上げました。けれどもネバーバードはピーターにもらった帽子がとてもの気に入ったので、ネバーバードはもとの巣を見捨てることになったのです。この巣はしばらく海の上を漂った後、ばらばらに壊れてしまいました。そしてスターキーは礁湖の岸辺にやって来た時、ネバーバードが自分の帽子の上に乗っているのを見て、よく苦々しい気持ちになったものでした。もうこのネバーバードの姿を見ることもないのでお話しておくことにしますと、ネバーバード達はみんな帽子の形の巣を作るようなり、その大きなつばに乗ってひな鳥達が涼んだりするようになったのです。
 ピーターがウェンディのすぐ後に続いて地下の隠れ家に戻った時、みんなの喜びようは大変なものでした。ウェンディはあちこち風に飛ばされて、戻るのに手間取ったのです。誰もが、みんなの前で語るのにふさわしい、立派な冒険を経験していました。中でも一番の冒険は、床に就くのが何時間も遅れたということでしょう。子供達はこのことに気を良くして、包帯を巻いて欲しいだのと色んな注文をつけて、さらに床に着くのを遅らせるようとしました。けれどもウェンディは、みんなが無事に家に戻れたことに喜びを感じたものの、あまりに遅い時間に恐れをなして、逆らいようのない厳しい声で「もう、お休みなさい。」と叫んだのでした。でもウェンディは、翌日にはいつにも増して優しい態度で、一人残らず包帯を配ってくれたのです。子供たちは床に着く時間までずっと、びっこを引いて歩いたり、腕を三角巾に吊るしてみたりして遊んだのでした。

 ネバーランドでの生活は、すべてメイク・ビリーブの遊びで成り立っているので、傷を負うことも不便を被ることも何もかもが、恰好いい冒険を演じる遊技となってしまう。だからピーターがフックに負わされた負傷も、当然のごとく忘れられてしまうのである。

用語メモ
 冒険(adventure):本来ならばロマンスの世界において、凶悪な魔物と戦いを行うなどの、崇高で運命的な行為を語る言葉であったことだろう。子供達の主観がすべてを決定する世界では、ベッドに就く時間を遅らせることが最高の冒険となってしまう。行った行為の偉大さではなく、行動原理の倫理的な基準の変更がより大きな精神的冒険となってしまった、19世紀末以降の思想的状況のカリカチュアとなっている。




和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課 
◆内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◆「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◆ アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◆ ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/


 平成17年12月21日和洋女子大学にて開催の
“ポエトリー・リーディング”
において行った朗読、「“Frivolous Cake”ー“浮気なケーキ”を読む」をアップロードしました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/speech/cake/cake.html

 “公開講座8” The Last Unicorn『最後のユニコーン』の世界
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/H17E_fest/eibun.htm

論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中




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