Archive for 29 March 2006

29 March

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 133


Chapter 10
THE HAPPY HOME

One important result of the brush on the lagoon was that it made the redskins their friends. Peter had saved Tiger Lily from a dreadful fate, and now there was nothing she and her braves would not do for him. All night they sat above, keeping watch over the home under the ground and awaiting the big attack by the pirates which obviously could not be much longer delayed. Even by day they hung about, smoking the pipe of peace, and looking almost as if they wanted tit-bits to eat.
They called Peter the Great White Father, prostrating themselves before him; and he liked this tremendously, so that it was not really good for him.
"The great white father," he would say to them in a very lordly manner, as they grovelled at his feet, "is glad to see the Piccaninny warriors protecting his wigwam from the pirates."
"Me Tiger Lily," that lovely creature would reply. "Peter Pan save me, me his velly nice friend. Me no let pirates hurt him."
She was far too pretty to cringe in this way, but Peter thought it his due, and he would answer condescendingly, "It is good. Peter Pan has spoken."
Always when he said, "Peter Pan has spoken," it meant that they must now shut up, and they accepted it humbly in that spirit; but they were by no means so respectful to the other boys, whom they looked upon as just ordinary braves. They said "How-do?" to them, and things like that; and what annoyed the boys was that Peter seemed to think this all right.
Secretly Wendy sympathised with them a little, but she was far too loyal a housewife to listen to any complaints against father. "Father knows best," she always said, whatever her private opinion must be. Her private opinion was that the redskins should not call her a squaw.

礁湖での小競り合いのもたらした大きな成果は、インディアン達が子供達と仲良くなったことです。ピーターは、タイガー・リリーを恐ろしい運命から救ってくれたのです。ですから今は、彼女も仲間の勇者達も、ピーターのためなら何でもしてくれるのです。インディアン達は、海賊達の総攻撃に備えて一晩中地下の隠れ家の上で見張りをしました。まもなく総攻撃が始まるのは避けられないことでした。昼の間でさえもタイガー・リリー達は周囲に留まって、友好の印の煙草をふかし、何かおやつでも差し出してもらいたそうにさえ見えました。
インディアン達はピーターのことを“偉大なる白い父”と呼び、ピーターの足元でひれ伏しました。ピーターはこれがとても気に入ってしまったので、こんなことになったのはピーターのためにあまりいい事とは言えませんでした。
「偉大なる白い父は、」ピーターは平伏したインディアン達にとても偉そうに言うのでした。「ピカニニー族の戦士達が、海賊から小屋を守ってくれているのを、とてもうれしく思うぞ。」
「タイガー・リリーを、」美しい娘は、答えて言うのでした。「ピーター・パン救った。私、ピーター・パンの友達だ。海賊に、ピーター・パン、傷つけさせない。」
あまりに美しいタイガー・リリーがこんなへつらうような態度を見せるのは、似付かわしくありませんでした。けれどもピーターは、これが当たり前だと思っていました。そして家来をねぎらうように言うのでした。「それはよろしい。これがピーター・パンの言葉じゃ。」
ピーターが「これがピーター・パンの言葉じゃ。」と言った時には、“もう喋るな”ということでした。そしてインディアン達は、おとなしくこれに従ったのです。けれども他の少年たちに対しては、決してこのような態度をとることはありませんでした。ごく普通の勇者として扱うばかりでした。インディアン達は子供達には「やあ、どう?」とかいうように声をかけるのでした。そして子供達を当惑させたのは、ピーターもこれが当然のことだと思っていたらしいことです。
胸の内では、ウェンディは子供達のことが少し気の毒な気がしていました。でもウェンディはとても夫を大事にする奥さんだったので、お父さんに対する文句など、聞くつもりはありませんでした。「お父さんの言うことが一番よ。」胸の内は何であれ、ウェンディはいつも言うのでした。でも内心思っていたのは、インディアン達が自分のことを“スクウォー”呼ぶのは勘弁して欲しい、ということでした。

子供達同士の場合だけでなく、インディアン達を相手にしても、他の子供達と比してピーターの享受する特権的な厚遇は、いささかも変わるところが無い。互いの夢想の重なり合いとしての世界を共有して生きていながら、すべてを支配下に置くヒエラルキーの頂点が別個に確かに存在するのである。これは多くのファンタシーが無意識の裡に指向すると思われる、失われた崇高と絶対的な支配原理の復権の願望に対する、アイロニカルな参照とも読み取れそうに思える。

用語メモ
condescend:“身を低める”ことではあるが、自分がより高い身分にあることを意識しながら、相手に親身な態度をとってやることを意味するので、“cringe”(へつらう)ような“humble”(へりくだった)な態度とは、むしろ正反対である。
スクウォー:インディアンの言葉で女のこと。軽蔑的に用いられる。



和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課 
◆内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◆「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◆ アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◆ ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/


 平成17年12月21日和洋女子大学にて開催の
“ポエトリー・リーディング”
において行った朗読、「“Frivolous Cake”ー“浮気なケーキ”を読む」をアップロードしました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/speech/cake/cake.html

 “公開講座8” The Last Unicorn『最後のユニコーン』の世界
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/H17E_fest/eibun.htm

論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中


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