Archive for 03 March 2006

03 March

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 107


...He often went out alone, and when he came back you were never absolutely certain whether he had had an adventure or not. He might have forgotten it so completely that he said nothing about it; and then when you went out you found the body; and, on the other hand, he might say a great deal about it, and yet you could not find the body. Sometimes he came home with his head bandaged, and then Wendy cooed over him and bathed it in lukewarm water, while he told a dazzling tale. But she was never quite sure, you know.

ピーターはよく一人で出掛けました。そしてピーターが帰って来た時、ピーターが冒険をしてきたのか、してこなかったのか、はっきり言うことはだれにもできませんでした。ピーターは自分のしてきたことをすっかり忘れてしまっていたため、なにも自分で言うことはなかったからです。それなのに出掛けてみると、ピーターに殺された海賊の死骸が見つかったりするのです。そしてまた、ピーターは自分のしてきた冒険のことをとても沢山語ることもありました。でもピーターに殺された海賊の死骸を見つけることは、できなかったのです。時々ピーターは、頭に包帯を巻いて戻って来ることもありました。ウェンディは優しい声をかけ、ぬるま湯で傷口を洗ってやりました。そしてピーターは、目の覚めるような華々しい冒険の顛末を物語るのでした。でもウェンディには、それが果たしてすべて真実なのか、はっきりと分かることは決してなかったのです。

 夢想と現実、嘘と真実が交替して顕現することが可能な共軛的属性として感知される特殊な次元に、ピーターはある。そこでは極大と極小、生成と消失が滑らかな連続の許に具現しており、時間性における循環さえもが実は無いのかもしれない。事実と虚構という要素が排他的に選択されて属性記述を行うべきものとしてあるのではなく、これらの両者が矛盾なく重ね合わせとして存在することが可能な新たな次元軸の導入を通して、あまりにも閉塞的な現実世界の限界性を乗り越えることのできる、倫理的・芸術的打開策の考案が、ロマン主義の哲学的要請に対して不可能事の顕現を図るファンタシーの提示する解答なのであった。

用語メモ
 重ね合わせ:「ある」ことと「無い」ことの双方を様相あるいは属性として保持することのできるような、二者択一的論理の超克された状況である。




和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

◆内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◆「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◆ アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◆ ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中




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