Archive for 06 March 2006

06 March

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 110


 Or suppose we tell of the birds that were Peter's friends, particularly of the Never bird that built in a tree overhanging the lagoon, and how the nest fell into the water, and still the bird sat on her eggs, and Peter gave orders that she was not to be disturbed. That is a pretty story, and the end shows how grateful a bird can be; but if we tell it we must also tell the whole adventure of the lagoon, which would of course be telling two adventures rather than just one. A shorter adventure, and quite as exciting, was Tinker Bell's attempt, with the help of some street fairies, to have the sleeping Wendy conveyed on a great floating leaf to the mainland. Fortunately the leaf gave way and Wendy woke, thinking it was bath-time, and swam back. Or again, we might choose Peter's defiance of the lions, when he drew a circle round him on the ground with an arrow and dared them to cross it; and though he waited for hours, with the other boys and Wendy looking on breathlessly from trees, not one of them dared to accept his challenge.
 Which of these adventures shall we choose? The best way will be to toss for it.
 I have tossed, and the lagoon has won. This almost makes one wish that the gulch or the cake or Tink's leaf had won. Of course I could do it again, and make it best out of three; however, perhaps fairest to stick to the lagoon.

 あるいはまた、ピーターの友達の鳥達のことをお話するのもいいかもしれません。珊瑚礁の入江の上に差し掛かる木に巣を造っていたネバーバードなど、はぴったりです。この巣が海に落ちてしまい、ネバーバードは巣の中で卵を抱いたままだったのですが、ピーターはこの巣に決して危害を加えないように命令を下したのです。これはとてもいい話でした。この話の結末は、鳥というものがどれほど強い感謝の気持ちを抱くことができるかを語ってくれています。でもこの話をするとなれば、珊瑚礁で起こった事件の全てをお話しする必要があります。そういうことになると、これは一つではなくて、二つのお話をしてしまうことになります。もっと短くて、同じ程わくわくするのは、ティンカー・ベルの悪巧みの話でしょう。ティンクはごろつきの妖精達の手を借りて、眠っているウェンディを大きな木の葉っぱに乗せて、もとの世界に送り返そうとしたのです。運良く葉っぱは沈み始めてしまい、ウェンディはお風呂の時間だと思って目を覚まして、泳いで帰ることができたのです。またあるいは、ピーターがライオン達を挑発した事件のことをお話しすることもできます。ピーターは、自分の体の周りに矢で円を描き、この線を越えられるものならやってみろ、とけしかけたのです。ピーターは、何時間も待ち続けました。その間ウェンディと他の少年達は、木の上で息を呑んで見守っていました。でも、たった一頭のライオンも、この挑戦に応じることはなかったのです。
 これらの冒険のうち、どれをお話しすることにしましょうか?一番良いのは、コインを投げて決めることです。
 コインを投げました。結果は、珊瑚礁の事件と出ました。こう決まってしまうと、ガルチの冒険か、ケーキのお話か、ティンクの悪巧みの話が選ばれていれば良かったような気がしてしまうことでしょう。勿論、もう一度やり直して、この3つから最高に面白いお話を選び直すこともできます。でもやっぱり、コインの選んだ通り、珊瑚礁の冒険のお話を始めるのが一番でしょう。

 この場面では“ネバーツリー”と並んで“ネバーバード”も言及されている。“ネバー”が“ノー”と同値であるとするならば、「存在しない」という意味の属辞を冠した主語として、これらは上に言及された以外のいかなる属性をも所有し、いかなるエピソードの主題となっても論理的には正しい。“非在”という特殊な属性を保持することにより、論理上遍在と万能を可能にするという発想は、ピーターというキャラクター設定要素と深く結びつき、このお話の基調を占めるものである。
 幾度も繰り返し、お話の語りの進行について作者が読者にしばしば相談を持ちかけることになる。そればかりか、相談相手としての読者の、物語世界への参加までもが実際に物語られる結果となる。語られつつあるこのお話と、語るお話の内容を決定するためにコインを投げた語り手の“私”について語ることによって、このお話の言及する対象は、事実と仮定と虚構の総てを包含するものであることが暗示されている。

用語メモ
 toss:投げあげる動作が“トス”である。球技げボールを上に投げるのも、フライパンで揺すりながら高温の油で炒めるのも、この場合のようにコインを宙に投げあげるのも同じ“トス”の動作である。



和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◆内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◆「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◆ アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
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http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中


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