Archive for 08 March 2006

08 March

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 112


 The children often spent long summer days on this lagoon, swimming or floating most of the time, playing the mermaid games in the water, and so forth. You must not think from this that the mermaids were on friendly terms with them: on the contrary, it was among Wendy's lasting regrets that all the time she was on the island she never had a civil word from one of them. When she stole softly to the edge of the lagoon she might see them by the score, especially on Marooners' Rock, where they loved to bask, combing out their hair in a lazy way that quite irritated her; or she might even swim, on tiptoe as it were, to within a yard of them, but then they saw her and dived, probably splashing her with their tails, not by accident, but intentionally.
 They treated all the boys in the same way, except of course Peter, who chatted with them on Marooners' Rock by the hour, and sat on their tails when they got cheeky. He gave Wendy one of their combs.

 子供達はよくこの礁湖で、長い夏の日を泳いだり水に浮かんだり水中で人魚の遊びをしたりして過ごしたものでした。だからといって、人魚達が子供達に対して友好的な生き物だなんて思ってはなりません。全く反対で、この島にいる間一度も、人魚達から優しい言葉をかけてもらえなかったのが、ウェンディの後々まで残念に思ったことの一つでした。礁湖の縁までそっと忍び寄ってみると、何十匹もの人魚達を目にすることが出来ることもありました。特に置き去りの岩の上では、人魚達がひなたぼっこをしながらしどけなく髪を梳いたりしていて、ウェンディは、じれるような気持ちに駆られるのでした。時にはつま先立ちで近付くように、そっと水の中を泳いで1ヤード程の距離まで近寄ったりもしてみたのです。でも人魚達はウェンディに気付くと、尻尾でウェンディに水しぶきを浴びせて、あっと言う間に水に潜ってしまうのでした。
 人魚達は、他の子供達にも同様の態度を示しました。勿論ピーターだけは例外です。ピーターは置き去りの岩の上で何時間も人魚達と一緒におしゃべりをし、人魚達が生意気な態度を取ると思ったら、尻尾の上に腰を掛けたりするのでした。ピーターはウェンディに人魚の櫛をくれたこともあります。

 妖精も人魚も、ウエンディの予期に反して、友好的な存在ではなかった。理想の世界であった筈のネバーランドは、ことごとく期待を裏切るものであったことになる。ウェンディの願望の中で最も魅力的に思えていた部分こそが彼女に失望を与える種となったことは、このお話のファンタシー文学としての位相に関して暗示的であると言えよう。

用語メモ
 maroon:海賊などが行う罰として、孤島に置き去りにすることをいう。処刑の一つの方法でもあった。




和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◆内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◆「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◆ アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◆ ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中




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