Archive for January 2005

31 January

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 123


"I am Schmendrick the Magician," he announced, swirling his cloak with both hands until it billowed feebly.

「私は魔法使いのシュメンドリックという者です。」高らかに名乗って、マントを風に翻そうと両手で広げたのですが、彼のマントはみすぼらしく棚引いただけでした。

 ここに描かれているような滑稽な場面が、この作品の中では繰り返し登場している。単なる悪ふざけ以上の、作品提示における主題に直截に関連する意味性をこのような記述方法の中に認めることが、『最後のユニコーン』をより深く読み解く鍵となるだろう。“諧謔性”に対する哲学的評価が改めて求められると思われる部分である。

用語メモ
 滑稽(the ridiculous):例えば、『最後のユニコーン』と思想的に近接した部分を多く持つと思われるEdgar Allan Poe の作品世界に対する評価が行われる時、恐怖やグロテスクな要素が着目されることはしばしばあったが、滑稽さの部分は見落とされがちであった。“滑稽さ”の要素が実は、ポーの意識していた思想体系においては、“恐怖”や“真面目”と反転的に連接するものであることを理解しておくことが重要であると思われる。


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(論文、アンチ・ファンタシーというファンタシー(13)「荒唐無稽とアナクロニズムとペテン的言説―『最後のユニコーン』における時間性と関係性の解体と永遠性の希求」を新規公開中)


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30 January

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 122


"Slit his wizard."
She had meant to say either "weasand" or "gizzard," and had said both,

 「こんな魔法使い、喉笛をかっ切って殺しちゃいなよ。」
 女は“weasand”(のど笛)か、“gizzard”(はらわた)か、どちらかの言葉を口に出そうとして、うっかり一度に両方言ってしまったのでした。

 言い間違って口にした言葉が、意図に反して“魔法使い”(wizard)になってしまったので、これを耳にしたシュメンドリックが自尊心を取り戻して、我に返ることになる。

用語メモ
 言い間違い:古代から演劇の世界ではしばしば活用されてきた、劇空間の特異な関係性と技巧的な状況を構築する、仮構世界設立に関わる特殊な技術である。現実世界の生真面目な模倣という写実的な目的とは明確に相反するものである。


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29 January

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 121


"Who is't you bring us, comrade or captive?"

「お前が連れてきたのは何者かな?仲間か、虜か?」

 伝説の英雄ロビン・フッドの真似をした言葉遣いをしている。ロビン・フッド達は悪代官の手先はさらってきて、身の代金を取った。教養のある人物は歓迎して楽しく森の中でもてなした。悪代官にひどい目に遭わされて逃げてきた者達はかくまった。

用語メモ:
 模倣(imitation):理想の人物の姿として、伝説に語られたロビン・フッドの生き方を模倣する男達が登場している。作品世界の中で他の何かを模倣する、という行為は、時に模倣された対象を嘲笑する“パロディ”の効果をもたらす場合もあるが、明らかに別の存在物を模して語り、描くという行為自体の、世界全体の枠組みの中で原初的に保持する図式的意味性については、必ずしも十分な理解が得られている訳では無い。


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28 January

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 120


Voices murmured somewhere ahead, sullen as robbed bees.

どこか頭の上の方から人の声が聞こえてきました。蜜を盗まれた蜜蜂のような、むっつりと不機嫌な声でした。

 馬の背の上に腹這いに乗せられたシュメンドリックの視点から周囲の状況が描写されている。シュメンドリックには馬の背中しか目に入っていないのである。「蜜を盗まれた蜜蜂のように」の部分はビーグルお得意の動物のイメージを活かした喩えである。

用語メモ
 直喩(simile)の効果:物語における直喩表現の効果は、現出した状況を既知の何かになぞらえて具体的に語ろうとすることばかりとは限らない。“語り”という独特の様式によって構築される世界の中では、喩えに用いられた事物は、実際に具体的な存在感を持ってそこに描き出されてもいるのである。



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27 January

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 119


"Aha," the sentry chuckled. "That's where the cleverness of it is. You have to give the call three times. Two long and one short."

「そこなんだ。」見張りの男はくすくす笑いました。「そこが今度の合言葉のいいとこなんだ。キリンの鳴き声を3回やるんだ。2回長く、1回短く出すんだ。」

 絶対忘れることのない合言葉の名案として見張りの男が教えてくれたのは、鳴き声は出さないというキリンの声で答えるものだという。実際に言われた通りにジャック・ジングリーは合言葉を言い、中に通してもらうこととなる。しかし声を出さないはずのキリンの声を3回出してみせた、と記述されているのは、むしろ微妙な語りの上での幾分いかがわしいペテン行為がなされていると解釈するべきであろう。
 キリンは実際には鳴き声を出すらしい。

用語メモ
 ペテン的言説: 『最後のユニコーン』において用いられた、作品世界の存在論的位相に特有の属性を付け加えるレトリック(修辞法)を指摘するために、この“ペテン的言説”という言葉を採用することにする。“アンチ・ファンタシーというファンタシー”を形成する条件の一つである。
 Cf. 「荒唐無稽とアナクロニズムとペテン的言説―『最後のユニコーン』における時間性と関係性の解体と永遠性の希求」


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