Archive for May 2005

31 May

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 243


"You are bored with bliss, satiated with sensation, jaded with jejune joys. It is a king's affliction, and therefore no one wants the services of a magician than a king does. "

「陛下は栄華の故に倦怠を、富裕の故に枯渇を、悦楽の故に疲弊を味わっておいででありますな。それこそ王たるものの苦痛というものです。だからこそ、王ほど魔法使いを必要とするものは他にないのです。」

 全てを手に入れたが故に満足を忘れてしまう絶対権力者である王が、なぜお付きの魔法使いを必要とするかを述べようとするシュメンドリックの言葉である。深い憂鬱に悩む王の姿は、旧約聖書の“King Saul”を連想させる。

用語メモ
 bored with bliss, satiated with sensation, jaded with jejune joys:それぞれの語の“b”、と“s”と“j"の部分で頭韻を踏んでいる。シュメンドリックは根っからの詩人である。


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作品研究サンプル
▼『不思議の国のアリス』とファンタシーの世界
・映画“ラビリンス”とアリス
・映画“ドリーム・チャイルド”とアリス

(論文、アンチ・ファンタシーというファンタシー(13)「荒唐無稽とアナクロニズムとペテン的記述―『最後のユニコーン』における時間性と関係性の解体と永遠性の希求」、『ピーターとウェンディ』注釈テキスト "Annotated Peter and Wendy"等を公開中)


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30 May

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 242


"But the pleasures of court," the magician cried,"the music, the talk, the women and fountains, the hunts and the masques and the great feasts--"
"They are nothing to me," King Haggard said. "I have known them all, and they have not made me happy. I will keep nothing near me that does not make me happy."

 「しかし王宮の楽しみ事というものがあるではありませんか。」シュメンドリックは言いました。「音楽に、語らいに、女たちに、噴水に、狩りや舞踏会や饗宴などー」
 「そのようなものは儂にとっては無に等しい。」ハガード王が答えました。「儂はお前が今語ったものの総てを味わってみたけれど、そのいずれも儂に幸福を与えてくれることは無かった。儂に幸福を与えてくれることの無いものなど、傍らにおいておくつもりは無い。」

 シュメンドリックの勧める華やかな宮廷の楽しみごとの数々について、取り付きようもない冷淡な態度で拒否するハガード王の言葉である。最高級の本物以外には心を満たすことができない真の教養人には、喜びを与えるべき娯楽や遊戯の全てが、苦痛以外の何物でもないおぞましいものに変質する。知識と教養に付随するディレムマである。

用語メモ
 stoicism(禁欲主義):快楽も喜びも、全ての安逸を受け入れることを拒否して、求道的な生活のみを生き甲斐にしようとする生の態度である。当然ながら最も純粋で高級な快楽以外の何物をも享受することを拒む、最高の贅沢の主張ともなる。


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▼『不思議の国のアリス』とファンタシーの世界
・映画“ラビリンス”とアリス
・映画“ドリーム・チャイルド”とアリス

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29 May

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 241


"You are losing my interest," the rustling voice interrupted him again, "and that is very dangerous. In a moment I will have forgotten you quite entirely, and will never be able to remember just what I did with you. What I forget not only ceases to exists, but never really existed in the first place."

「お前は儂の関心を失いつつある。」しゃがれた声で再びハガード王がシュメンドリックをさえぎって言いました。「そしてそれはとても危険なことなのだ。次の瞬間には儂はお前のことなどすっかり忘れてしまっていることだろう。そうなればお前と言葉を交わしたことさえ思い出すことはあるまい。儂が忘れてしまったことは存在することを止めてしまうばかりでなく、最初から存在などしていなかったことになってしまうのだ。」

 王様お付きの魔法使いとして仕官を願い出るシュメンドリックの口上にしびれを切らして、ハガード王の語った言葉である。「最後のユニコーン」という作品の成立する根本原理を理解するための重要なヒントとなる台詞であると思われる。
 この言葉に従えば、ハガード王にとっては時間軸の方向性の支配さえ一切受けることなく、存在物の総てが単なる自身の記憶上のものとして、つまり己の思念の下位項目を成す内部機構として感知され、また実際に客観的具象物としても存在することとなる。ハガード王という人物造型においては、文字どおり作品世界中の全智で全能である、造物主としてのすべての特権を保持する存在としての作者(語り手)と同格の権能を備えた、つまり語り手と同列の超テキスト的全権性を備えた作者の影、あるいは分身であるとも看做され得る存在原理が暗示されているということなのだろう。
 仮構世界と、その仮構世界を構築し物語るという行為自体をも含めて、存在と記述の相関における限界と可能性を記述対象に含んだ言説となっている。

用語メモ
 solipsism(我全主義):客観的事象の存在の全てを否定し、全てを意識の主体の主観に過ぎないとして理解する宇宙論の一つである。ハガード王はこの原理が摘要され得る例外的存在として、自身の固有の存在原理を主張するのである。


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28 May

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 240


Prodigies began to waken somewhere southwest of his twelfth rib, and he himself--still mirroring the Lady Amalthea--began to shine.

驚くべき一大事がリア王子の十二番目の肋骨の南西の辺りで目覚め始めました。そしてリア王子自身が、アマルシア姫の光を反射するばかりでなく、自ら輝き始めたのです。

 本物の存在であるユニコーンに影響を受けて、これまではぼんくらの気の良いだけの青年であったリア王子に変化が訪れる。奇跡を行うべき潜勢力を備えた存在のユニコーンに呼応して、この世に"hero"の誕生という奇跡の到来した一瞬が、「12番目の肋骨の南西の辺りで目覚めた」と諧謔的な表現でもって語られているのである。

用語メモ
 prodigy:傑出した人物、天才的な能力の持ち主、あるいは途轍も無い事件のことをこの言葉で呼ぶ。現実の人間社会では、陳腐な俗物達の愚劣な行為があるだけなので、この言葉自体が実は、奇跡と驚異の具現化するファンタシーの空間を暗示するものなのである。


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27 May

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 239


"Hi," said Prince Lir. "Glad to meet you." His smile wriggled at their feet like a hopeful puppy, but his eyes--a deep, shadowy blue behind stubby lashes--rested quietly on the eyes of the Lady Amalthea.

「やあ。よろしくね。」リア王子が言いました。王子の頬笑みは、餌でももらえると期待している子犬のように、彼等の足元にじゃれつきました。けれども彼の目は、人形のようなぱっちりとした目の奥の深い沈んだ青い色の瞳は、静かにアマルシア姫の目の上に注がれていました。

 ハガード王とは対照的に、リア王子はいかにも気の良さそうな、しかし軽い感じのする人物である。ビーグル独特の動物のイメージを巧みに活用した表現が、見事にこの二人を描き分けていくことになる。キーワード“animal image”と関連すると共に、諧謔的な描写の仕方はキーワード“anitfantasy”とも連なるものである。

用語メモ
 “stubby lashes”:直訳すれば「切り株のような睫毛」である。極端な誇張がなされた表現は、ほとんどナンセンスの領域に重なるほどである。「人形のようなぱっちりとした目」は苦し紛れの意訳である。


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