Archive for 29 May 2005

29 May

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 241


"You are losing my interest," the rustling voice interrupted him again, "and that is very dangerous. In a moment I will have forgotten you quite entirely, and will never be able to remember just what I did with you. What I forget not only ceases to exists, but never really existed in the first place."

「お前は儂の関心を失いつつある。」しゃがれた声で再びハガード王がシュメンドリックをさえぎって言いました。「そしてそれはとても危険なことなのだ。次の瞬間には儂はお前のことなどすっかり忘れてしまっていることだろう。そうなればお前と言葉を交わしたことさえ思い出すことはあるまい。儂が忘れてしまったことは存在することを止めてしまうばかりでなく、最初から存在などしていなかったことになってしまうのだ。」

 王様お付きの魔法使いとして仕官を願い出るシュメンドリックの口上にしびれを切らして、ハガード王の語った言葉である。「最後のユニコーン」という作品の成立する根本原理を理解するための重要なヒントとなる台詞であると思われる。
 この言葉に従えば、ハガード王にとっては時間軸の方向性の支配さえ一切受けることなく、存在物の総てが単なる自身の記憶上のものとして、つまり己の思念の下位項目を成す内部機構として感知され、また実際に客観的具象物としても存在することとなる。ハガード王という人物造型においては、文字どおり作品世界中の全智で全能である、造物主としてのすべての特権を保持する存在としての作者(語り手)と同格の権能を備えた、つまり語り手と同列の超テキスト的全権性を備えた作者の影、あるいは分身であるとも看做され得る存在原理が暗示されているということなのだろう。
 仮構世界と、その仮構世界を構築し物語るという行為自体をも含めて、存在と記述の相関における限界と可能性を記述対象に含んだ言説となっている。

用語メモ
 solipsism(我全主義):客観的事象の存在の全てを否定し、全てを意識の主体の主観に過ぎないとして理解する宇宙論の一つである。ハガード王はこの原理が摘要され得る例外的存在として、自身の固有の存在原理を主張するのである。


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作品研究サンプル
▼『不思議の国のアリス』とファンタシーの世界
・映画“ラビリンス”とアリス
・映画“ドリーム・チャイルド”とアリス

(論文、アンチ・ファンタシーというファンタシー(13)「荒唐無稽とアナクロニズムとペテン的記述―『最後のユニコーン』における時間性と関係性の解体と永遠性の希求」、『ピーターとウェンディ』注釈テキスト "Annotated Peter and Wendy"等を公開中)


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