Archive for 15 July 2005

15 July

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 288


"Even when I wake, I cannot tell what is real, and what I am dreaming as I move and speak and eat my dinner. I remember what cannot have happened, and forget something that is happening to me now. People look at me as though I should know them, and I do know them in the dream,..."

「私は目を覚ましている時でさえ、身体を動かしたり口をきいたり食事をしたりしながらも、何が本当なのか、何が私が見ている夢に過ぎないのか、区別がつかないのです。私は起きたことのある筈のないことを覚えていて、今起こりつつあることを忘れてしまっているのです。人々は私が彼等のことを知っているに違いないという目つきで私の方に顔を向けます。けれども私が彼等に出会ったのは夢の中だった筈なのです。」

 本来は時間の支配から無縁な“eternal”で“immortal”な存在である筈のユニコーンが、暫くの間魔法の力の支配を受けて、運命に弄ばれる時間の奴隷たる人間、つまり“mortal”な存在になってしまうことにより、その記憶あるいは認識のどちらの言葉で呼ぶことも実はもともと不可能であった筈の、我々人間のものとは全く異なる超越的意識機構の内部感覚における虚と実、夢と現実等、真正なるものとその影に相当するものとの間の逆転現象が生起してしまっているのである。

用語メモ
 カオス化(chaos):神の支配と人間の信仰に裏打ちされた、意味が意味をなす整然とした空間領域がコスモス(cosmos)と呼ばれたのに対して、意味も法則性も失われた、空間としての属性さえも失われてしまった領域がカオスと呼ばれるものであった。
 永遠性の存在としては例外的な運命を享受することとなった、このユニコーンの心中に現出した不可思議な経験あるいは幻想あるいは錯覚としてここに描き出されているものは、ファンタシーの文法に倣って極大と極小を転換する操作を施すことによって視点の移動を試みてみるならば、あるいはまた極性不在の崩壊過程にある、現代世界そのものに対する写像の一つであると看做すこともまたできるものに違いない。


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論文、アンチ・ファンタシーというファンタシー(14)“意味消失による意味性賦与の試み──『最後のユニコーン』における矛盾撞着と曖昧性”を新規公開中


作品研究サンプル
▼『不思議の国のアリス』とファンタシーの世界
・映画“ラビリンス”とアリス
・映画“ドリーム・チャイルド”とアリス



オープン・キャンパス英文学科模擬授業のお知らせ

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』の世界

7月17日、14時30分より、15時15分まで
和洋女子大学 東館10階、演習室1にて開催
           (また、教室が変更になりました。)

『最後のユニコーン』と魔法の記述

 Peter Beagle の長篇ファンタシー作品『最後のユニコーン』(The Last Unicorn)では、魔法についての記述に独創的な表現が駆使されており、“あり得ない物語世界”と“永遠の美と真実”というファンタシー文学の中心的主題を効果的に導き出すことに成功している。

1 魔女の語る言葉

Her voice left a flavor of honey and gunpowder on the air.

魔女の声は蜂蜜と火薬の匂いを空気に漂わせました。

2 魔女の発した魔法の呪文

There was a smell of lightning about the unicorn when the old woman had finished her spell.

魔女が呪文を唱え終わった時、ユニコーンの体の周りには稲光りの臭いが漂っていました。

3 魔法使いの唱えた魔法の呪文

Schmendrick took a deep breath, spat three times, and spoke words that sounded like bells ringing under the sea. He scattered a handful of powder over the spittle, and smiled triumphantly as it puffed up in a single silent flash of green. When the light had faded, he said three more words. They were like the noise bees might make buzzing on the moon.

シュメンドリックは深く息をつき、3度つばをはきかけて、海の底で鐘の鳴り響くような言葉をつぶやきました。それからはきかけたつばの上に一握りの粉をまき、音も無く緑の光を発して燃え上がると、勝ち誇ったように微笑みました。光がおさまると彼はさらに3つの言葉をつぶやきました。それらはミツバチが月の上で羽音を立てているような響きでした。

アニメーション映画 “The Last Unicorn”の紹介、
『最後のユニコーン』についての質疑応答も行います。


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