Complete text -- "The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 363"

28 September

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 363


For Molly Grue, the world hung motionless in that glass moment. As though she were standing on a higher tower than King Haggard's, she looked down on a pale paring of land where a toy man and woman stared with their knitted eyes at a clay bull and a tiny ivory unicorn. Abandoned playthings--here was another doll, too, half-buried; and a sandcastle with a stick king propped up in one tilted turret.

モリー・グルーにとっては、この凍り付いたような瞬間、世界の総てが動きを止めて宙に浮いているように思えました。あたかも彼女がハガード王の立っている城よりもさらに高い城の上に立っており、白っぽい砂浜の切れ端の上でおもちゃの男と女が眉をひそめて粘土細工の牡牛と象牙細工のユニコーンを見つめているのを見下ろしているとでもいうかのようでした。それはまるで遊び飽きて捨てられたおもちゃさながらでした。もう一つの人形が半分砂に埋もれ、砂の城が傾いた塔に棒切れのような王様を寄り掛からせていました。

 物語世界がクライマックスを迎え、究極の緊張の一瞬を迎えようとするその時、作中人物の1人のモリーの視点は、物語世界の枠外に存在すると同時に物語世界のすべてにその影を反映させている語り手の視点と同調するのである。物語世界の住民達とは、紛れも無く作者の心中に束の間存在することが可能となった操り人形のような、観念上の仮構的存在物達に過ぎない。その限界性の烙印が時に応じてあるいは荒唐無稽な漫画的描述方法の裡に、あるいは玩具的非実体性として、戯画化された彼等の姿に表出することとなっているのである。この物語のアンチ・ファンタシー的感覚が最も濃厚な箇所である。

用語メモ
 knitted eyes:“knit”は二本の編み棒を用いて行う、編み物の動作である。 “knitted eyes”とは、日本語に訳せばむしろ“眉を寄せて”難し気な顔つきをしている様子のことである。真剣な作中人物達の表情が、冷淡に突き放したような表現でもって描写されている。


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論文、アンチ・ファンタシーというファンタシー(14)“意味消失による意味性賦与の試み──『最後のユニコーン』における矛盾撞着と曖昧性”を新規公開中


作品研究サンプル
▼『不思議の国のアリス』とファンタシーの世界
・映画“ラビリンス”とアリス
・映画“ドリーム・チャイルド”とアリス


 “『最後のユニコーン』読解メモ”はこの後の第14章をもって終了となります。
 これまで解説されていた部分についての疑問、言及されていなかった箇所についての質問等がありましたら、お知らせ下さい。
総集編で補完したいと思います。その他リクエスト等ご遠慮なくお寄せ下さい。


大学祭英文学科公開授業のお知らせ

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』の世界

11月5日(土)、11月6日(日)の両日開催

The Last Unicornー映画化の最新情報

 1982年のアニメーション版は日本では未公開だが、欧米では熱狂的ファンも多い。“アメリカ”の主題歌が今また話題になっている。
 2005年公開予定で製作進行中の実写版は、今世界中のホームページで注目を浴びている。

1 ユニコーンとは

伝説に語り伝えられたユニコーン:プリニウスの「博物誌」の記述

Pliny describes the unicorn as being very ferocious, similar in the rest of its body to a horse, with the head of a deer, the feet of an elephant, the tail of a bear; a deep, bellowing voice, and a single black horn, two cubits in length

プリニウスによれば、ユニコーンはとても獰猛で、身体そのものは馬と同様だが、頭は鹿のようで、足は象のようで、尾は熊のようで、唸る声はとても重々しく、2キュービットの長さの黒い角を持っているということだ。

伝説上のユニコーンとは様々の動物の組み合わせ、“キメラ”(chimera)にも似た存在であった。

 クリュニー美術館所蔵のタペストリー:「貴婦人とユニコーン」
 中世的“アレゴリー”の世界の中のユニコーン像

2 『最後のユニコーン』のユニコーンは、これらとは全く異なる存在属性を与えられている。

ユニコーンを語る独特の描写と比喩の用法
She was very old, though she did not know it, and she was no longer the careless color of sea foam, but rather the color of snow falling on a moonlit night.

彼女は、自分では知らなかったけれど、とても年とっていた。そして彼女はもう海の泡のような無邪気な白い色ではなく、月の照らす晩に降る雪のような白い色をしていた。


But her eyes were still clear and unwearied, and she still moved like a shadow on the sea.

けれどもユニコーンの目はまだ透き通っていて疲れを知らず、彼女は
海の上の影のように身体を運びました。

She did not look anything like a horned horse, as unicorns are often pictured, being smaller and cloven-hoofed, and possessing that oldest, wildest grace that horses have never had, that deer have only in a shy, thin imitation and goats in dancing mockery.

彼女はユニコーンがしばしば絵に描かれていたように、角のついた馬のような姿はしていなかった。体は馬よりも小さく、蹄は二つに割れていて、馬が決して所有したことのない、そして鹿はただ薄っぺらなおずおずとした物真似でしか所有したことがなく、そして山羊はおどけて踊るような形でしか持っていない“オールド”で“ワイルド”な優美さを備えていた。


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