Complete text -- "Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 45"

31 December

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 45


 Mrs. Darling quivered and went to the window. It was securely fastened. She looked out, and the night was peppered with stars. They were crowding round the house, as if curious to see what was to take place there, but she did not notice this, nor that one or two of the smaller ones winked at her. Yet a nameless fear clutched at her heart and made her cry, "Oh, how I wish that I wasn't going to a party to-night!"
 Even Michael, already half asleep, knew that she was perturbed, and he asked, "Can anything harm us, mother, after the night-lights are lit?"
 "Nothing, precious," she said; "they are the eyes a mother leaves behind her to guard her children."
 She went from bed to bed singing enchantments over them, and little Michael flung his arms round her. "Mother," he cried, "I'm glad of you." They were the last words she was to hear from him for a long time.
 No. 27 was only a few yards distant, but there had been a slight fall of snow, and Father and Mother Darling picked their way over it deftly not to soil their shoes. They were already the only persons in the street, and all the stars were watching them. Stars are beautiful, but they may not take an active part in anything, they must just look on for ever. It is a punishment put on them for something they did so long ago that no star now knows what it was. So the older ones have become glassy-eyed and seldom speak (winking is the star language), but the little ones still wonder. They are not really friendly to Peter, who had a mischievous way of stealing up behind them and trying to blow them out; but they are so fond of fun that they were on his side to-night, and anxious to get the grown-ups out of the way. So as soon as the door of 27 closed on Mr. and Mrs. Darling there was a commotion in the firmament, and the smallest of all the stars in the Milky Way screamed out:
 "Now, Peter!"

 ダーリング夫人は身震いをして、窓のところに行きました。窓はしっかりと閉められていました。お母さんは外の様子を窺いました。夜空には星が点々としていました。星達はこれから何が起こるのか気になるとでもいうかのように、家の周囲にひしめき合っていたのでした。けれどもお母さんはこのことには気付かず、小さ目の星が一つか二つお母さんの方に瞬きしているのにも気付きませんでした。けれども何かいいしれない恐怖がお母さんの心臓をわしづかみにして、お母さんは思わず叫び声をあげました。「本当に今晩は、パーティには行きたくないわ。」
 もう半ば眠りに落ちていたマイケルさえも、お母さんが不安な気持ちになっているのが分かりました。そして聞きました。「お母さん、蝋燭を灯した後でも、何か嫌なことが起こるの?」
 「そんなことはないのよ。マイケル。」お母さんは答えました。「蝋燭はね、お母さんが子供達を守るために残しておく魔法の目なのよ。」
 お母さんは子供達のベッドからベッドへと回って、魔法の呪文を唱えました。小さなマイケルは、両手を伸ばしてお母さんに抱きつきました。「お母さん、お母さんがいてくれて、嬉しい。」でも、この時以来長いこと、ダーリング夫人はマイケルの声を耳にすることができなくなってしまうのでした。
 27番地のお宅は、ほんの数ヤード離れているだけでした。でも雪が少し降っていたので、お父さんもお母さんも靴を汚さないように、気をつけて歩を進めて行きました。もう通りには、他に歩いている人の姿はありませんでした。そして全ての星達が二人の姿を眺めていました。星というものは美しいものです。けれども、星達はどんな事にも関わり合いを持とうとすることはありません。ただ離れて眺めているだけなのです。それは、遠い昔に彼等が犯してしまった過ちのために下された罰なのです。どんな恐ろしい事をしてしまったのか覚えている星は、今はもういませんけれど。ですから年取った星達は涙にうるんだ目をしていて、滅多に口をきくことはありません。(星がちかちかしているのは、会話をしているのです。)でも小さな星達は、まだ表情を示します。本当は、星達はピーターと仲が良い訳ではありません。ピーターはよくいたずらをして、星達の背後から忍び寄って、光を吹き消してしまおうとするからです。けれども星達は面白い有り様を目にするのが大好きなので、今日はピーターの味方でした。そういう訳で早く大人達にいなくなって欲しいと願っていたのです。27番地のお宅のドアが閉まり、ダーリング夫妻の姿が見えなくなると、夜空一面がさざめき立ちました。そして天の川を流れているすべての星のどんなに小さなもの達も、ピーターに呼び掛けました。
 「そら、今だよ。」

 お母さんは魔法を行使する。個人に秘められた不可思議な未知の能力を「魔法」として再評価することにより、客観的具象物と精神との間の連関を見出し、宇宙全体の統合的理解を図ろうと企図するのが、ファンタシーの基盤にある思想的特質であった。
 そのような理解の上では、かつては星達は世界の運行に重大な関わりを持っていた筈に違いない。しかし何かとんでもない間違いが世界に起こってしまったために、世界全体を支配する緊密な連帯が失われてしまっていることが示されているのである。この喪失観は、本作品において描かれたピーター自身の運命をもさりげなく予兆している。

用語メモ
 portent(予兆):お母さんは予兆を感じる。現実世界において生起するそれぞれの事象と個々の想念の裡における苦楽が、深い繋がりをもって連続性の中に存在しているのである。予兆と呼ばれる関連性の知覚と絶対的な幸福、不幸と呼ばれ得る出来事が確かに存在するのである。ここには典型的なファンタシーにおける世界観が暗示されている。





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