Complete text -- "Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 164"

29 April

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 164


 Thus defenceless Hook found him. He stood silent at the foot of the tree looking across the chamber at his enemy. Did no feeling of compassion disturb his sombre breast? The man was not wholly evil; he loved flowers (I have been told) and sweet music (he was himself no mean performer on the harpsichord); and, let it be frankly admitted, the idyllic nature of the scene stirred him profoundly. Mastered by his better self he would have returned reluctantly up the tree, but for one thing.
 What stayed him was Peter's impertinent appearance as he slept. The open mouth, the drooping arm, the arched knee: they were such a personification of cockiness as, taken together, will never again, one may hope, be presented to eyes so sensitive to their offensiveness. They steeled Hook's heart. If his rage had broken him into a hundred pieces every one of them would have disregarded the incident, and leapt at the sleeper.
 Though a light from the one lamp shone dimly on the bed, Hook stood in darkness himself, and at the first stealthy step forward he discovered an obstacle, the door of Slightly's tree. It did not entirely fill the aperture, and he had been looking over it. Feeling for the catch, he found to his fury that it was low down, beyond his reach. To his disordered brain it seemed then that the irritating quality in Peter's face and figure visibly increased, and he rattled the door and flung himself against it. Was his enemy to escape him after all?

 このようにピーターが無防備でいるところを、フックは見つけたのである。フックは木の根本のところから、部屋の向こう側にいる敵の姿をじっと見つめた。フックの暗い胸の裡には、情けの心は全く沸き上がらなかったのであろうか?この男は心底邪悪である訳ではなかった。彼は花を愛した。それは確かに耳にしたことである。そして美しい音楽も愛した。実際、ハープシコードの腕前は中々のものであった。そして率直に言ってしまえば、周囲の情景の牧歌的な面持ちが、フックの心をかき乱したのである。良心の声に屈服して、しぶしぶとまた木を登って戻っていったかもしれなかった。しかしそうはさせないものが一つ、そこにあった。
 フックの足を留めさせたのは、眠っているピーターの生意気そうな外見であった。口を開け、腕をベッドの端から垂らし、膝を立てているその姿は、生意気さをそのまま人の姿にしたもののようだったので、このような侮辱に対してはあまりに繊細な人物の目の前にこれを二度と示すことは、到底考えられないほどであった。その姿がフックの心を鋼のように固くしたのである。もしもフックの憤怒が彼の身を百ものかけらに粉砕したとしても、その一つ一つがこの事実を顧みもせず、眠っている敵に襲いかかったであろう。
 一つ灯っていたランプの灯りがベッドの上をかすかに照らしていたが、フック自身は暗がりの中に立ち尽くしていた。そして一歩足を忍びやかに踏み出そうとして、フックは障害の存在に気付いた。それはスライトリーの木に付けられた戸口であった。この戸口は隙間を完全に塞いではいず、フックはこの戸口の上から部屋の中を見渡していたのであった。手探りで掛け金を探してみて、苛立たしいことにそれが手の届かない下のほうに付いていることが分かった。混乱したフックの頭の中では、その時ピーターの顔と体の我慢のならない部分が、目に見えて増して来たように思えた。フックは戸口を揺さぶり、体をぶつけた。彼の仇敵は、結局のところ彼の手を逃れてしまうのだろうか?

 ピーターの存在に関する謎が、擬装されて語られている部分である。ピーターの示す「生意気そうな」外見とは、実はフック当人の意識の内部機構の及ぼす投影として理解されるべきである。
 本当のところは、ピーターの保持していた属性の一つである“生意気さ”がフックの心を苛立たせるのではなく、ピーターの存在自体が否応も無くフックを苛立たせる原因となる謎を秘めており、そのためにフックはピーターの姿に避けるべくもなく“生意気さ”という圧倒的な主観的印象を感じ取ってしまうのである。つまりフックは絶え間なくピーターのために心を苛まれ続ける永遠の被害者であり、不可避的に救済される術を奪われた、宿命的な受難者なのである。この両者の関係性が主客を転倒した相互作用的現象認識に関する記述手法の展開の一例として、“生意気さ”という属性あるいは概念を採用して語られているのである。

用語メモ
 相互作用:一方が他方に及ぼすという単一方向的な作用としてではなく、現象の生成を関連する要素全てに反映された統合的事象として考えた時、主客の関係すらが反転して理解可能となる。




◆和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

◆教室が決まりました。西館の3Fにある第2コンピュータ室で開催の予定です。コンピュータの使い方をご存じの方は、当日お伝えするユーザー名とパスワードを用いてログインし、インターネットに接続することができます。ワードを起動してメモ等を作成することもできます。データ保存のためのフロッピー・ディスクあるいはフラッシュメディアをご持参下さい。
◆第1回目が連休の最中という、大変な日程で組まれていることが分かりました。初回欠席でも、受講には差し障りありません。2回目以降好きな時に出席して頂いて結構です。講座は4回連続ですが、毎回の講義内容は、その場の状況に合わせて随時工夫していく予定ですので、出席は単発でも構わないのです。当日の受講受付もできます。
 コンピュータの利用に親しんでいる方は、テキストを購入しなくても教室でインターネットに繋いで、物語の本文を参照することができます。コンピュータに不馴れな方のためには、書物のテキストを用意してあります。講座は2時から開始ですが、1時頃には講師は来ておりますので、質疑応答等行えます。
 あらかじめ、物語のどの部分を読んでみたいか、あるいはこのお話の解釈について疑問を感じる点等を用意しておいて頂ければ、これに対する解説として講義を行って行きます。
 対訳を作成してありますので、翻訳上の疑問点等をご指摘頂ければ、「意訳」の工夫などを話題にすることもできます。

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◇内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



◆「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◇「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◇アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◇ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



◆メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

◇平成17年12月21日和洋女子大学にて開催の
“ポエトリー・リーディング”
において行った朗読、「“Frivolous Cake”ー“浮気なケーキ”を読む」をアップロードしました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/speech/cake/cake.html

◇“公開講座8” The Last Unicorn『最後のユニコーン』の世界
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/H17E_fest/eibun.htm

◇“公開講座9”:自分との共生
ジャンヌ・ダルクの影とナウシカの影 ―神や悪魔として現れるものたち
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/joan/joan.htm

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシーII:アンチ・ファンタシーの中のヒーロー(英雄)―『最後のユニコーン』のアンチ・ロマンス的諧謔性とファンタシー的憧憬”を新規公開中
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/antiromance.htm



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