Complete text -- "Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 195"

30 May

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 195


 Hitherto he had thought it was some fiend fighting him, but darker suspicions assailed him now.
 "Pan, who and what art thou?" he cried huskily.
 "I'm youth, I'm joy," Peter answered at a venture, "I'm a little bird that has broken out of the egg."
 This, of course, was nonsense; but it was proof to the unhappy Hook that Peter did not know in the least who or what he was, which is the very pinnacle of good form.
 "To't again," he cried despairingly.
 He fought now like a human flail, and every sweep of that terrible sword would have severed in twain any man or boy who obstructed it; but Peter fluttered round him as if the very wind it made blew him out of the danger zone. And again and again he darted in and pricked.
 Hook was fighting now without hope. That passionate breast no longer asked for life; but for one boon it craved: to see Peter show bad form before it was cold forever.
 Abandoning the fight he rushed into the powder magazine and fired it.
 "In two minutes," he cried, "the ship will be blown to pieces."
 Now, now, he thought, true form will show.
 But Peter issued from the powder magazine with the shell in his hands, and calmly flung it overboard.

 これまではフックは、自分が戦っている相手が何か化け物のようなものだと思っていた。しかし今、さらに恐ろしい疑惑が彼を襲ったのである。
 「パン、一体お前は何物なのだ?」かすれた声でフックは尋ねた。
 「僕は若さだ、僕は歓喜だ!」ピーターは、当てずっぽうに答えた。「僕は、卵から孵ったばかりの雛鳥だ。」
 勿論これは、意味をなさない答えであった。しかしこの返答が、ピーターが自分が一体何物なのか、一切全く知らないという事実を示していることは、哀れなフックには明白であった。そしてこれこそが、この上ないグッド・フォームであることは言うまでもない。
 「また、これか。」フックは、絶望にかられてうめいた。
 フックは今は、フレイルに成り代わったように激しく戦いを続けていた。彼の振る剣の一撃一撃が、少年であれ大人であれ、即座に真っ二つにしてしまうような勢いであった。しかしピーターは、あたかもその剣の引き起こす風によって吹き飛ばされるかのように、軽やかにフックの周囲を舞っていた。そして繰り返し突きを入れては、フックに傷を負わせていた。
 フックは今は、全ての希望を失ったまま戦い続けていた。彼の情熱に満ちた思いは、命の存続など望んではいなかった。欲するのはただ一つのことであった。命の灯火の尽き果てる前に、ピーターに無様な様を演じさせることである。
 フックは弾薬庫に駆け込み、火を放った。
 「後2分で、この船は木っ端微塵だ!」フックは叫んだ。
 さあ、今こそ化けの皮がはがれるぞ。
 しかしピーターは、砲弾を手に弾薬庫から姿を現し、落ち着き払って海に投げ込んだ。

 ピーターとフックとの間にある不可思議な関係を推し量ることのできる、最も重要な場面であろう。“グッド・フォーム”という概念を軸にこの主題が語られていることが、殊に興味深い。フックは、彼の仇敵の真の正体にここで改めて勘付くが、この啓示を活かして霊的救済に導かれることもないまま、ピーターのでまかせの言葉によってはぐらかされてしまうのである。ロマンス的大団円を脱臼させ、あまりにも現実的で苛酷な事態の終結がもたらされるストーリーの展開が示されることとなる。

用語メモ
 flail:脱穀のために用いる道具で、“殻竿”というものがある。柄の先に可動式の金属片が取り付けられたもので、激しく叩いて操作するものである。同様の構造の武器が戦いにも用いられ、これも同じ名で呼ばれている。“ファイナル・ファンタジー”等のゲームでは、武器としてお馴染みの名前である。




◆「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しています。
◇「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◇アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◇ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。
◇18年度に開講中の各講座のトピックを開設しました。受講生以外の一般の方も御覧になれます。書き込み等も歓迎です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp


◆メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

◇スピーチ:“ウェストサイド・ストーリー”
 音声実況データをアップロードしました。

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシーII:ユニバーサル、ユニコーン―『最後のユニコーン』におけるユニコーンの存在論的指標”を新規公開中
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/universal.htm

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー(15):レッド・ブル―無知と盲目の影”を新規公開
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/shadow.htm





00:00:00 | antifantasy2 | | TrackBacks
Comments
コメントがありません
Add Comments
:

:

トラックバック