Complete text -- "Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 196"

31 May

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 196


 What sort of form was Hook himself showing? Misguided man though he was, we may be glad, without sympathising with him, that in the end he was true to the traditions of his race. The other boys were flying around him now, flouting, scornful; and he staggered about the deck striking up at them impotently, his mind was no longer with them; it was slouching in the playing fields of long ago, or being sent up for good, or watching the wall-game from a famous wall. And his shoes were right, and his waistcoat was right, and his tie was right, and his socks were right.
 James Hook, thou not wholly unheroic figure, farewell.
 For we have come to his last moment.
 Seeing Peter slowly advancing upon him through the air with dagger poised, he sprang upon the bulwarks to cast himself into the sea. He did not know that the crocodile was waiting for him; for we purposely stopped the clock that this knowledge might be spared him: a little mark of respect from us at the end.
 He had one last triumph, which I think we need not grudge him. As he stood on the bulwark looking over his shoulder at Peter gliding through the air, he invited him with a gesture to use his foot. It made Peter kick instead of stab.
 At last Hook had got the boon for which he craved.
 "Bad form," he cried jeeringly, and went content to the crocodile.
 Thus perished James Hook.

 フックは、自分自身がどんな様を見せてしまっていたのだろう?道を誤った男ではあったが、同情ではなく、最後には彼が先達の範に外れることがなかったのを喜んでも良いであろう。他の子供達も、今はフックの周囲をあざけりながら飛び回っていた。フックは甲板の上をよろめきながら、力なく子供達に打ちかかっていた。フックの心は、もはや彼等と共にはなかった。彼の心は、遠い昔の学生時代に戻っていたのである。懐かしい競技場の辺りを彷徨い、あるいは名高い壁の上からウォールゲームの行われるのを眺めていた。もうすっかり過去の世界だった。彼の靴も問題なかったし、チョッキも、靴下も大丈夫だった。
 ジェイムズ・フック、全く英雄的でなくもなかった男よ、さらば。
 我々は、いよいよ彼の最期の場面を迎えようとしているのである。
 ピーターが短剣をかざしてゆっくりと宙を飛び、近付いて来るのを目にすると、フックは海に飛び込もうと、舷墻の上に飛び乗った。フックには、鰐が下で待ち構えていることが分からなかった。何故なら、フックが鰐の接近に気付くことのないようにと、そのために時計を止めておいたからだ。彼が最期を迎えるにあたっての、ささやかな尊敬の念の証である。
 フックは最期に一つの勝利を得た。これをフックに与えることを惜しむ理由はない。舷墻に立ったまま、フックは肩ごしに後ろを振り返ると、ピーターが宙を滑って迫って来るのが見えた。フックは、足で蹴り付けるようにと促した。ピーターは短剣で敵を貫く代りに足で蹴落とした。
 最後にフックは求めていたものを手に入れたのである。
 「みっともない格好だ、」フックは口許を歪めて笑い、満足して鰐の口の中へと落下していった。
 こうして、ジェイムズ・フックは滅んだのである。

 フックの最期を語る描写である。美学と理性の殉教者として影との合一の機会を失った近代的知性に対して、作者から捧げられた恩寵であるかのようにこの場面が語られている。鰐の時計の音を止めたことが、語り手による作品世界に対する明らかな干渉として語られている。
 離反した影との合体というファンタシー文学特有の主題が巧みに歪曲され、対立要素の統一と、分極生成した要素との合体という各々の主題に対して、微妙な偏向が施されていることが分かる。

用語メモ
 wall game:伝統あるパブリック・スクールで行われた競技の一種である。実際に壁を利用して行ったらしい。




◆「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しています。
◇「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◇アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◇ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。
◇18年度に開講中の各講座のトピックを開設しました。受講生以外の一般の方も御覧になれます。書き込み等も歓迎です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp


◆メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

◇スピーチ:“ウェストサイド・ストーリー”
 音声実況データをアップロードしました。

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシーII:ユニバーサル、ユニコーン―『最後のユニコーン』におけるユニコーンの存在論的指標”を新規公開中
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/universal.htm

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー(15):レッド・ブル―無知と盲目の影”を新規公開
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/shadow.htm




00:00:00 | antifantasy2 | | TrackBacks
Comments
コメントがありません
Add Comments
:

:

トラックバック