Complete text -- "英文学科公開講座主題1 「フック」"

01 September

英文学科公開講座主題1 「フック」

9月2日に開催の英文学科公開講座の主題解説を致します。

ファンタシーと仮構(フィクション)の位相
ー“ピーター・パン”を題材にした3つの映画とメタフィクション

1 “フック”
 映画は一つの独立した仮構世界ではありながら、お話のもととなる原作や描かれている状況の示す現実世界との関わり等のいくつかの関連において、様々な微妙な位相を形成することとなる。“現実にはあり得ないとされる出来事の顕現の様が語られる”という定義のもとに理解される“ファンタシー”が映画となった時、現象として起こりえないとされる“不可能性”や現実とは区別される別世界としての“仮構”という要因が、作品世界の構築においてどのような機能を果たし、新たな様相を示すことになっているだろうか。
 “フック”(Hook、1991年、スティーブン・スティルバーグ監督)には、一見したところお馴染みの“ピーター・パン”のお話の後日談と思われる世界が描かれている。現実世界に復帰した後、大人になってネバーランドのことをすべて忘れてしまっていたピーターのもとに、ネバーランドから彼の宿敵キャプテン・フックの挑戦状が届くからである。しかしこの映画は、“ピーター・パン”に描かれていた仮構的事実の以降の有様が描かれた“後日談”とは言い切ることのできないものなのである。何故ならば作中において実際に以下のような台詞が語られているからだ。
 ピーターの子供達に語るウェンディの言葉である。

...that is the same window, and this is the same room where we made up stories about Peter and Neverland and scary old Captain Hook. And do you know, Mr. Barrie--well, Sir James--our neighbor, he loved our stories so much that he wrote them all down in a book.

あれがお話に出てくるあの窓で、この部屋で私達は、ピーターとネバーランドと恐ろしい海賊のフック船長のお話を作り上げたのよ。そしてみんなも知っているように、ご近所に住んでいたバリさん、サー・バリはこのお話をとても気に入って、本に書いて下さったの。

映画“フック”に登場するウェンディおばあさまは、オリジナルの“ピーター・パン”のお話を構想した、元祖のウェンディなのだ。つまり映画“フック” によれば、良く知られたあの“ピーター・パン”のお話は、彼女達の語ったお話しをヒントに作家ジェイムズ・バリが書いた、二次的作品に過ぎないことになる。だからこの映画の世界は、あの“ピーター・パン”のお話しと、その作者であるバリの双方をその内部に含む、より大きな広がりを持った別種の仮構世界なのである。そしてウェンディ達がお話に語り本に書かれたこと以外の、彼等の実際に体験した本当の冒険の存在が、より確かな事実として主張されることともなる。現実世界の中にある仮構作品“ピーター・パン”に対する言及とこの作品世界を内に含むという包含関係から、映画“フック”は確かにフィクションの枠組みを意識したフィクションとして、“メタフィクション”の条件を満足させている。その結果このフィクション世界においては、フックとピーターとネバーランドのいずれもが、単なる仮構としての限界を超えた、より実在性を強く保持した超越的仮構存在となっているのである。現実と仮構を峻厳に分けるべき境界線の存在を曖昧にするための巧みな劇作的操作が施されているからである。

12:28:06 | antifantasy2 | | TrackBacks
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