Complete text -- "The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 61"

30 November

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 61


Strung on the loom of iron bars, the web was very simple and almost colorless, except for an occasional rainbow shiver when the spider scuttled out on it to put a thread right. But it drew the onlookers' eyes--and the unicorn's eyes as well--back and forth and steadily deeper, until they seemed to be looking down into great rifts in the world, black fissures that widened remorselessly and yet would not fall into pieces as long as Arachneユs web held the world together.

鉄格子の機織り機に掛けられた蜘蛛の網はとても粗末なもので、蜘蛛がこそこそと出て来ては糸を掛け直した時に時折見える虹のような輝きを除いては、ほとんど色もありませんでした。けれどもこの網は見るものの目を引き付けたのでした。そしてユニコーンの目もまた、同様に引き付けられてしまいました。蜘蛛が行ったり来たりするうちに、だんだんと深く沈み込んでいき、何時の間にか彼等は世界の大きな裂け目の中を覗き込んでおり、その黒々とした裂け目は容赦もなく広がっていき、かろうじてアラクネがその網で繋ぎ止めていなければ、散り散りに裂けてしまいそうに思えるのでした。

 世界にほころびが生じ、全てが分解しつつある様を感じる時の不安感がマミー・フォルチュナの魔法の力によって見事に見物人達の目に映し出されている。近代に至り、客観的・相対主義的現実認識を受け入れざるを得なくなった知識人達は、世界と個々人を共に意義あるものとして結び付けることに成功していた古代思想の破綻を感じた時の心情を、「世界がひっくり返った。」と形容した。自我の分裂状況に対する痛切な自覚と世界の崩壊を意識する暗澹たる感覚は、同一の危機感の表裏をなすものであると考えられる。心理的には、このような感覚に対する癒しとしてファンタシーは機能している。

用語メモ
 引き裂かれる世界:ルネサンス以降の近代人が経験した、宇宙構造と人間の内面意識の双方における従来の確信の崩壊感覚である。信じていた価値観と意義性のコペルニクス的転換を強いられた時の不安と動揺がここに再現されている。シェイクスピアの諸作品にもこの感覚は強く影を落としているし、エリザベス朝の知識人達は一様に、「世界がひっくり返った。」、「もはや中心はどこにも無く、すべてがばらばらになった。」と感じていた。この感覚は今は、我々の心の基底に自覚されることもなくくすぶり続けているものとなっている。

和洋女子大学英文学科
「ポエトリー・リーディングの一日」のご案内
詳細
http://www.wayo.ac.jp/topics/boshuu.html
作家島田雅彦氏による講演・パフォーマンス <自由人の祈り>

メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

(『最後のユニコーン』注釈テキスト "Annotated Last Unicorn"、論文「『最後のユニコーン』と“漫画性”」、「『最後のユニコーン』のフック的アンチ・ヒーローと神格化された無知」、『ピーターとウェンディ』注釈テキスト "Annotated Peter and Wendy"等を公開中)



00:00:00 | antifantasy2 | | TrackBacks
Comments
コメントがありません
Add Comments
:

:

トラックバック