Archive for October 2004

31 October

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 31


“aroint thee, witch, aroint thee”

“去れ、魔女よ去れ”

全くとりとめのない言葉のように思われる蝶のこの台詞も、シェイクスピア「マクベス」の第1幕第3場からの引用である。一見散漫に古今の文学作品からの引用、パロディを繰り返すことにより、物語世界は作品本来の個別性、事象性を希薄化させて、他のものとの関係性のみを特性として主張することにより、特有の観念空間内部における普遍性を獲得するに至る。シェイクスピアの劇作品が勝ち得ていたものがこれであった。仮構世界の構築するそのような要素を哲学的観点から高く評価したのがドイツロマン主義である。

用語メモ
 引用、パロディ:積極的な仮構世界構築戦略の一手法としてファンタシーにおける引用、パロディの技法を評価するならば、具体的事象性を削ぎ落とすことにより抽象性とシステム構造性自体に目を向けさせようと企図する点で、ファンタシーは“ノベル”(小説)と呼ばれるものが意図するものとは対照的なものを指向していることが理解されなければならなくなるだろう。これに対して“ノベル”におけるパロディは多くの場合風刺を目的とするものである。

公開授業のお知らせ
和洋女子大学学園祭にて
11月6日:”「最後のユニコーン」と魔法”
11月7日:”「最後のユニコーン」とsorrow”
 両日共、午後1時より開催

公開授業の詳細:和洋女子大学TOPICS http://www.wayo.ac.jp/topics/eibun.html

メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

(「最後のユニコーン」、「ピーターとウェンディ」その他ファンタシー文学研究資料を公開中)


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30 October

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 30


"Rumpelstiltskin" the butterfly answered happily.

「“ルンペルシュティルツキン”だ!」蝶は嬉しそうに答えました。

 グリム童話「ルンペルシュティルツキン」(ぐらぐらの竹馬小僧)。意地悪な妖精が秘密にしていた名前がこれであった。ヒロインがこの名を言い当てることにより、赤ちゃんを奪われずに済むことになる。
 ユニコーンにとっては蝶が自分の名を当てるために発した言葉の一つともとれる。しかし全くのでたらめと謎を解く鍵を与えてくれる秘密の言葉とを判別する客観的な方程式は存在しない。

用語メモ
 童話(fairy tale):ファンタシー文学を生み出すきっかけとなったのは、近代西洋の哲学と文化の閉塞状況を自覚し、東方の文化に新たな啓示を見いだそうと模索したドイツロマン主義の人々の創始した“文学的おとぎ話”であった。
 その思想的特質としては、中国の思想家達、特に荘子や老子の影響が根強く見受けられる。

公開授業のお知らせ
和洋女子大学学園祭
11月6日:”「最後のユニコーン」と魔法”
11月7日:”「最後のユニコーン」とsorrow”
両日共、午後1時より開催

公開授業の詳細:和洋女子大学TOPICS http://www.wayo.ac.jp/topics/eibun.html

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(「最後のユニコーン」、「ピーターとウェンディ」その他ファンタシー文学研究資料を公開中)




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29 October

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 29


"consumptive Mary Jane"

“肺病病みのメアリ・ジェーン。”あるいは“金使いの荒いメアリ・ジェーン。”もしくは“金のかかるマリファナ(marihuana)”。

様々な解釈が可能な蝶の台詞である。言葉は常に一意的な対応関係を保持して意味を指示する記号である訳ではないので、読み手の解釈に従って複数の理解が可能である。存在物の示す様態と評価される意義性もまた同様に、複数の界面において様々に認知可能であると考えるのが、ファンタシーの底流にあるロマン主義の世界観であった。

用語メモ
 変身、“メタモルフォシス”(metamorphosis):魔法の真の存在目的は、常に変身の可能性を秘めており、よりふさわしいあるべき姿を取ろうと欲する世界全体と、その中に密接な関係性をもって含まれる個々の事物の双方を、正しいシステム原理に基づいて導き、“変身”させることであった。

公開授業のお知らせ
和洋女子大学学園祭
11月6日:”「最後のユニコーン」と魔法”
11月7日:”「最後のユニコーン」とsorrow”
両日共、午後1時より開催

公開授業の詳細:和洋女子大学TOPICS http://www.wayo.ac.jp/topics/eibun.html


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(論文「『最後のユニコーン』と“漫画性”」、「『最後のユニコーン』のフック的アンチ・ヒーローと神格化された無知」、「おしゃべりな語り手と擬装ーアンチ・ファンタシーにおけるディコンストラクション」等を公開中)


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28 October

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 28


"Do you know what I am, butterfly?" the unicorn asked hopefully, and he replied. "Excellent well, you're a fishmonger."

「私がだれだか分かるの、蝶々さん?」ユニコーンは期待を込めてたずねました。「そりゃあ知ってるとも、あんたは魚屋だ。」蝶は答えました。

 ユニコーンの問いに答えた蝶の言葉は実は、シェイクスピアの『ハムレット』、第2幕第2場からの引用となっている。狂った振りをしたハムレットがオフィーリアの父親のポローニアスに、「おまえは魚屋だ。」と言う。「魚屋」は女衒の意味がある。魚は「淫売」の別称であった。
 もちろん蝶の回答はでたらめで、裏に何の具体的な意味も含んでいない。蝶の応答のちぐはぐさは、ナンセンスと彼自身の意図と計算の欠如をのみ示すと思われる。

用語メモ
 ナンセンス(nonsense):意味性を保障する、あるいは発話の意味性が投影する限界ある機構の限界性自体に対する強烈な否定の意志表明として、ナンセンスは永遠性追求の自覚と反転的に連接する。

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(Annotated Last Unicornの冒頭部分、論文「『最後のユニコーン』のフック的アンチ・ヒーローと神格化された無知」、『ピーターとウェンディ』注釈テキスト "Annotated Peter and Wendy" 等を公開中)

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27 October

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 27


"Death takes what man would keep," said the butterfly, "and leaves what man would lose. Blow, wind, and crack your cheeks. I warm my hands before the fire of life and get four-way relief."

 蝶は言いました。「死神は人の大事にしたいと思うものを奪い去り、そして人の捨ててしまいたいと思うものを残していく。頬を膨らまして、風よ吹け。私は命の火に両手をかざして暖をとり、四方から上納を得る。」

 蝶のセリフは脈絡の無い、無意味な言葉の羅列のように思われる。けれども実は、彼のつぶやく言葉はすべて古今東西の詩歌の放埒な連想となっているかのようである。彼の思考と連想は、芸術家的人間の無意識の集合体のような様相を示している。従って彼の言葉と行動は当然無責任で、気紛れで、矛盾に満ちている。けれども、だからこそ、全てのものの深いつながりを語る真実を告げてくれるものであるかもしれない。
 relief=(封建法)相続上納金、後継者が土地を相続する際、領主に支払った金。cf. heriot:相続上納物

用語メモ
 無意識(subconscious):個人としての自覚を失った希薄な、あるいは微小な心の奥底は、空間的隔たりと時代的隔絶を超えてあらゆる国の人々の精神と記憶に繋がっており、実は宇宙の全ての現象と存在物に関する理解をも可能にするものであるかもしれない。ファンタシーの魔法や予言を成立させるための思想的特質として前提となっている仮説である。


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(「最後のユニコーン」ノート、『ピーターとウェンディ』注釈テキスト "Annotated Peter and Wendy"、 論文「キスと謎々」等を公開中)



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