Archive for December 2004

31 December

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 92


"I'll turn you into a bad poet with dreams. I'll set all your toenails growing inward. You mess with me."

「お前を夢ばかり追う詩人に変えてやる。足の指の爪をみんな内側に伸びるようにしてやる。俺のすることを邪魔立てしやがって!」

 終にルークと戦いを始めたシュメンドリックが、初めから気に食わなかったこの男に対して怒りをぶちまけて口にした言葉である。「魔法の力を使ってひどい目に遭わせる」と嚇しているが、実は迫力のないswearing(罵倒の言葉)の羅列でしかない。 "bad poet with dreams"はSchmendrick、あるいは作者自身に対するカリカチュアであろう。

用語メモ
 swearing(呪い言葉):喧嘩などの際に相手をののしって言う言葉を“swearing”という。“God!”や“Jesus!”もこれに含まれるのは、「みだりに神の名を唱えることなかれ。」というモーセの十戒に反するとされるから。


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(『最後のユニコーン』注釈テキスト "Annotated Last Unicorn"、論文「『最後のユニコーン』と“漫画性”」、「『最後のユニコーン』のフック的アンチ・ヒーローと神格化された無知」、『ピーターとウェンディ』注釈テキスト "Annotated Peter and Wendy"等を公開中)


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30 December

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 91


“Why is a raven like a writing desk?”

「どうしてカラスが机みたいかって?」

 シュメンドリックがルークの関心をそらすために与えた謎々であるが、もともとはルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』で用いられたriddleである。答えは、“raven(カラス)はinky(インクのように真っ黒、インクまみれ)で、いくつかのnote(鳴き声の音程、帳面)を出せるから”。この答えは後になってキャロルがこじつけたもので、最初は答えの用意の無い謎々であった。

用語メモ
 riddleとmystery:“riddle”が隠された正解を周到に用意した“謎々”であるのに対して、世界の根源にある人間的判断力からは理解不能と思われる不可思議な神秘性が“mystery”である。双方ともファンタシーの作品世界を構築する素材として、あるいは基幹的主題として重要な要因となる言葉である。

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29 December

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 90


Then she heard Rukh's voice, like a boat bottom gritting on pebbles.

それからユニコーンは、ルークの声が川底の砂利をこする船底のように響いてくるのを聞きました。

“iron”のイメージを用いて語られていたルークの声が、ここでは興味深い比喩でもって形容されている。キーワード“poetic phrases”に関連する。

用語メモ
 詩的表現と比喩:様々の事物に様々の様式でなぞらえる比喩の手法を摘要することにより、物語世界は現実世界と現実世界の枠外にあるあらゆる事象をなぞり、関連づけ、貫世界的宿命性を語らんとするがごとくである。


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28 December

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 89


"Unicorns know nought of need, or shame, or doubt, or debt--but mortals, as you may have noticed, take what they can get. "

ユニコーンはせざるを得ないこともなければ、屈辱を感じたり、迷ったり、負い目を感じたりすることもありません。でも人間というものは、今ごらんになったように、手に入るものを利用する他無いのです。

 望む通りの魔法の技を行使してユニコーンを救い出すことができないことが分かり、盗んだ鍵を用いて檻の扉を開けようとする時の、シュメンドリックの言い訳の言葉である。彼の語る通り、我々時間的存在である人間にとっては当然の、現実的制約から全く自由な空間に生きているのがユニコーン達永遠の存在である。しかし我々は決して時間的制約のもとに生きていることに満足している訳ではない。厳然たるあるがままの自然に対して、本来のあるべき姿からの乖離をどうしようもなく感じてしまうのが人間の定めなのである。

用語メモ
 キーワード“choice”:人間達のように時間性の束縛を受けて存在するものにとっては、“選択”とは選び取った選択肢以外の可能性の全てを放棄することに他ならない。常に究極のあるべき姿から離反し続けることしかできない自分自身の姿を苦々しく見つめる思いがこの魔法使いの心を占めている。


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27 December

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 88


When the light had faded, he said three more words. They were like the noise bees might make buzzing on the moon.

光が薄れた時、シュメンドリックはさらに3つの言葉をつぶやきました。それは月で蜜蜂がたてる羽音のような響きの呪文でした。

 再び、あり得ない、飛躍したものになぞらえる独特の比喩表現が繰り返されている。魔法の現象性を超越した属性に反響する表現技法が対句的に採用されていることが分かる。本作品冒頭のユニコーンを紹介する際に用いられたのと同様の表現技法が、魔法についての描写が行われるこの場面で対称的に反復されているのである。

用語メモ
 反復:記述され、伝えられる“意味”にも繰り返しと対照を通してリズムの効果を充填させることができる。優れた表現あるいは論証は、確かに音楽的な形態的要素を有効に活用して語られ得るものである。

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