Archive for February 2005

28 February

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 151


He did not look directly at the unicorn, but stole small sights of her as stealthily as though he could be made to put them back.

シュメンドリックは真っ直ぐにユニコーンの方に視線を向けることはありませんでした。こっそりと、少しずつ彼女の姿を盗み見していたのです。あたかも目でつかんだその姿を取り返されるとでもいうかのように。

 シュメンドリックに付きまとう自信の無さである。作者は明示的にこの人物に欠けているものが何であるかを示そうとはしていない。シュメンドリック、モリー、ハガード王、レッド・ブル、そしてユニコーンとハーピー等、この物語に登場するキャラクター達のそれぞれの存在属性を併置してみることによって初めて、この疑問に対する解答が得られることになるのだろう。

用語メモ
 存在属性:この物語においては本体と影、あるいは相補的な対という存在原理が支配的である。例えば1982年公開のアニメーション映画版「最後のユニコーン」では、ユニコーンはハーピーと自身の関係を“We are two sides of the same magic.”(「私達は同じ一つの魔法の二つの側面なのです。」)と語っていた。原作には無かった台詞であるが、映像表現として独自のプレゼンテーションの工夫が施されている映画版の与えてくれた、原作の背後に潜む構造性を読み解くための重要な手がかりであろう。


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(論文、アンチ・ファンタシーというファンタシー(13)「荒唐無稽とアナクロニズムとペテン的記述―『最後のユニコーン』における時間性と関係性の解体と永遠性の希求」を新規公開中)


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27 February

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 150


"Be wary of wousing a wizard's wrath!"

「魔法使いの怒りを買うと恐ろしいことになるぞ。」

 やけになって上のように言おうとしたシュメンドリックであるが、取り乱して、“rousing”と言うべきところが“wousing”になってしまった。恐ろしげな威嚇の言葉を発しようとしたのに、幼児のような舌足らずな発声となってしまったので、まるで効果が無い。“wary”、 “rousing”、“wizard's”、“wrath”の語頭の“w”の音と“r”の音の混乱が生じているのである。

用語メモ
 lisp:幼児の行うような舌足らずの発音の仕方を“lisp”と言う。現代では丸括弧でくくってタグを施した形式の記述言語の一つの名称ともなっている。


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26 February

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 149


Molly's own face closed like a castle against him, trundling out the guns and slings and cauldrons of boiling lead.

モリーの顔が城塞のように、大砲や投石機や煮えたぎった鉛の入った大鍋を繰り出して、シュメンドリックの前に立ちふさがりました。

 ユニコーンに同行を許可してもらえることを確信して、自信たっぷりなモリーの顔の描写である。意地になってモリーが同行することを拒否するシュメンドリックであるが、守りの堅い城を攻めあぐねるように手も足も出せない。

用語メモ
 boiling lead:城には攻め寄せてくる敵を迎え撃つために、熱湯や溶かした鉛などを浴びせかける仕掛けがあった。


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25 February

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 148


His voice and eyes were as stern as he could make them, but he could feel his nose being bewildered.

シュメンドリックは声も、目も、この上なく厳しいものにすることができていました。けれども鼻がたじろいでいるのが自分でも分かっていました。

 ユニコーンの探求の旅に同行することを申し出るモリーに対して、厳しい態度で拒否するシュメンドリックであるが、思い通りの威圧的な態度を取ることに失敗していることを自覚している。“he could feel his nose being bewildered”の部分は、この作品でシュメンドリックが最初に登場した際になされていた描写、“a tall thin man with an air of resolute bewilderment”と正確に対応している。

用語メモ
 bewilderment:普通に日本語に訳せば、「当惑」あるいは「困惑」に相当する言葉である。魔法に関する知識も実際に持っており、物事の核心的理解に対する優れた感覚も備えている筈のシュメンドリックという人物が、何故か常に引きずっている特有の脆弱さが、この言葉を用いて表現されている。


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24 February

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 147


The magician felt himself growing giddy with jealousy, not only of the touch but of something like a secret that was moving between Molly and the unicorn.

シュメンドリックは嫉妬の気持ちで目が回りそうになりました。モリーが気後れすることなくユニコーンに触れることができたことばかりでなく、モリーとユニコーンの間に通じている何か謎めいたもののためでした。

 魔法使いとして、世界の根本原理とユニコーンの存在の秘密について、確かな理解を持っていると自負するシュメンドリックであるが、ユニコーンとの関わりを通して、決定的にモリーに劣る部分があることを思い知らされるのである。

用語メモ
 謎:ここで“secret”と呼ばれているものは、他の言葉や概念では説明がつかない、しかし作品世界中に確かに現出した、不可解な“事実”としての“謎”である。“謎”とは他の要因に依存することなく、世界を構築する核となるある種の根本原理なのである。


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