Archive for May 2006

31 May

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 196


 What sort of form was Hook himself showing? Misguided man though he was, we may be glad, without sympathising with him, that in the end he was true to the traditions of his race. The other boys were flying around him now, flouting, scornful; and he staggered about the deck striking up at them impotently, his mind was no longer with them; it was slouching in the playing fields of long ago, or being sent up for good, or watching the wall-game from a famous wall. And his shoes were right, and his waistcoat was right, and his tie was right, and his socks were right.
 James Hook, thou not wholly unheroic figure, farewell.
 For we have come to his last moment.
 Seeing Peter slowly advancing upon him through the air with dagger poised, he sprang upon the bulwarks to cast himself into the sea. He did not know that the crocodile was waiting for him; for we purposely stopped the clock that this knowledge might be spared him: a little mark of respect from us at the end.
 He had one last triumph, which I think we need not grudge him. As he stood on the bulwark looking over his shoulder at Peter gliding through the air, he invited him with a gesture to use his foot. It made Peter kick instead of stab.
 At last Hook had got the boon for which he craved.
 "Bad form," he cried jeeringly, and went content to the crocodile.
 Thus perished James Hook.

 フックは、自分自身がどんな様を見せてしまっていたのだろう?道を誤った男ではあったが、同情ではなく、最後には彼が先達の範に外れることがなかったのを喜んでも良いであろう。他の子供達も、今はフックの周囲をあざけりながら飛び回っていた。フックは甲板の上をよろめきながら、力なく子供達に打ちかかっていた。フックの心は、もはや彼等と共にはなかった。彼の心は、遠い昔の学生時代に戻っていたのである。懐かしい競技場の辺りを彷徨い、あるいは名高い壁の上からウォールゲームの行われるのを眺めていた。もうすっかり過去の世界だった。彼の靴も問題なかったし、チョッキも、靴下も大丈夫だった。
 ジェイムズ・フック、全く英雄的でなくもなかった男よ、さらば。
 我々は、いよいよ彼の最期の場面を迎えようとしているのである。
 ピーターが短剣をかざしてゆっくりと宙を飛び、近付いて来るのを目にすると、フックは海に飛び込もうと、舷墻の上に飛び乗った。フックには、鰐が下で待ち構えていることが分からなかった。何故なら、フックが鰐の接近に気付くことのないようにと、そのために時計を止めておいたからだ。彼が最期を迎えるにあたっての、ささやかな尊敬の念の証である。
 フックは最期に一つの勝利を得た。これをフックに与えることを惜しむ理由はない。舷墻に立ったまま、フックは肩ごしに後ろを振り返ると、ピーターが宙を滑って迫って来るのが見えた。フックは、足で蹴り付けるようにと促した。ピーターは短剣で敵を貫く代りに足で蹴落とした。
 最後にフックは求めていたものを手に入れたのである。
 「みっともない格好だ、」フックは口許を歪めて笑い、満足して鰐の口の中へと落下していった。
 こうして、ジェイムズ・フックは滅んだのである。

 フックの最期を語る描写である。美学と理性の殉教者として影との合一の機会を失った近代的知性に対して、作者から捧げられた恩寵であるかのようにこの場面が語られている。鰐の時計の音を止めたことが、語り手による作品世界に対する明らかな干渉として語られている。
 離反した影との合体というファンタシー文学特有の主題が巧みに歪曲され、対立要素の統一と、分極生成した要素との合体という各々の主題に対して、微妙な偏向が施されていることが分かる。

用語メモ
 wall game:伝統あるパブリック・スクールで行われた競技の一種である。実際に壁を利用して行ったらしい。




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30 May

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 195


 Hitherto he had thought it was some fiend fighting him, but darker suspicions assailed him now.
 "Pan, who and what art thou?" he cried huskily.
 "I'm youth, I'm joy," Peter answered at a venture, "I'm a little bird that has broken out of the egg."
 This, of course, was nonsense; but it was proof to the unhappy Hook that Peter did not know in the least who or what he was, which is the very pinnacle of good form.
 "To't again," he cried despairingly.
 He fought now like a human flail, and every sweep of that terrible sword would have severed in twain any man or boy who obstructed it; but Peter fluttered round him as if the very wind it made blew him out of the danger zone. And again and again he darted in and pricked.
 Hook was fighting now without hope. That passionate breast no longer asked for life; but for one boon it craved: to see Peter show bad form before it was cold forever.
 Abandoning the fight he rushed into the powder magazine and fired it.
 "In two minutes," he cried, "the ship will be blown to pieces."
 Now, now, he thought, true form will show.
 But Peter issued from the powder magazine with the shell in his hands, and calmly flung it overboard.

 これまではフックは、自分が戦っている相手が何か化け物のようなものだと思っていた。しかし今、さらに恐ろしい疑惑が彼を襲ったのである。
 「パン、一体お前は何物なのだ?」かすれた声でフックは尋ねた。
 「僕は若さだ、僕は歓喜だ!」ピーターは、当てずっぽうに答えた。「僕は、卵から孵ったばかりの雛鳥だ。」
 勿論これは、意味をなさない答えであった。しかしこの返答が、ピーターが自分が一体何物なのか、一切全く知らないという事実を示していることは、哀れなフックには明白であった。そしてこれこそが、この上ないグッド・フォームであることは言うまでもない。
 「また、これか。」フックは、絶望にかられてうめいた。
 フックは今は、フレイルに成り代わったように激しく戦いを続けていた。彼の振る剣の一撃一撃が、少年であれ大人であれ、即座に真っ二つにしてしまうような勢いであった。しかしピーターは、あたかもその剣の引き起こす風によって吹き飛ばされるかのように、軽やかにフックの周囲を舞っていた。そして繰り返し突きを入れては、フックに傷を負わせていた。
 フックは今は、全ての希望を失ったまま戦い続けていた。彼の情熱に満ちた思いは、命の存続など望んではいなかった。欲するのはただ一つのことであった。命の灯火の尽き果てる前に、ピーターに無様な様を演じさせることである。
 フックは弾薬庫に駆け込み、火を放った。
 「後2分で、この船は木っ端微塵だ!」フックは叫んだ。
 さあ、今こそ化けの皮がはがれるぞ。
 しかしピーターは、砲弾を手に弾薬庫から姿を現し、落ち着き払って海に投げ込んだ。

 ピーターとフックとの間にある不可思議な関係を推し量ることのできる、最も重要な場面であろう。“グッド・フォーム”という概念を軸にこの主題が語られていることが、殊に興味深い。フックは、彼の仇敵の真の正体にここで改めて勘付くが、この啓示を活かして霊的救済に導かれることもないまま、ピーターのでまかせの言葉によってはぐらかされてしまうのである。ロマンス的大団円を脱臼させ、あまりにも現実的で苛酷な事態の終結がもたらされるストーリーの展開が示されることとなる。

用語メモ
 flail:脱穀のために用いる道具で、“殻竿”というものがある。柄の先に可動式の金属片が取り付けられたもので、激しく叩いて操作するものである。同様の構造の武器が戦いにも用いられ、これも同じ名で呼ばれている。“ファイナル・ファンタジー”等のゲームでは、武器としてお馴染みの名前である。




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29 May

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 194


 Without more words they fell to, and for a space there was no advantage to either blade. Peter was a superb swordsman, and parried with dazzling rapidity; ever and anon he followed up a feint with a lunge that got past his foe's defence, but his shorter reach stood him in ill stead, and he could not drive the steel home. Hook, scarcely his inferior in brilliancy, but not quite so nimble in wrist play, forced him back by the weight of his onset, hoping suddenly to end all with a favourite thrust, taught him long ago by Barbecue at Rio; but to his astonishment he found this thrust turned aside again and again. Then he sought to close and give the quietus with his iron hook, which all this time had been pawing the air; but Peter doubled under it and, lunging fiercely, pierced him in the ribs. At the sight of his own blood, whose peculiar colour, you remember, was offensive to him, the sword fell from Hook's hand, and he was at Peter's mercy.
 "Now!" cried all the boys, but with a magnificent gesture Peter invited his opponent to pick up his sword. Hook did so instantly, but with a tragic feeling th at Peter was showing good form.

 これ以上空言を弄することもなく、二人は剣を交えた。さしあたっては、いずれの側にもことさら有利な点は見つからなかった。ピーターは、優れた剣の使い手だった。驚くべき素早さで、敵の剣を受け流した。時折ピーターは、巧みな牽制から鋭い突きを繰り出し、相手の防御を突破することに成功したが、腕の長さが足りないため、十分な深さまで剣を突き立てることはできなかった。フックも、剣の腕前にかけてはいささかも劣ることはなかった。ピーターほどの手首の返しの巧みさはなかったものの、圧力の強さで相手を押し返し、得意の一撃で一気に勝負を決しようと目論んでいた。これは遠い昔、リオでバーベキュー船長に手ほどきを受けた戦法なのであった。しかし驚いたことに、彼の快心の一撃は、数度に渡り見事にかわされたのであった。次にフックは、これまで無駄に宙をさまよっていた彼の鉤爪を用いて、敵に致命的な一撃を与えようと試みた。しかしピーターは身を屈めてこの攻撃をかわし、鋭い突きを加えてフックの脇腹に傷を負わせた。自分の流す血の色を目にするや、ご存じのようにその独特の色合いはフックの気に触るものであったので、フックは思わず剣を取り落としてしまった。そして、ピーターのなすがままとなった。
 「今だ!」全ての子供達が叫んだ。しかしピーターは、堂々たる物腰で相手に剣を拾い上げるように促した。フックは迷わず剣を取った。しかし、ピーターがグッド・フォームを見せつけているという、痛切な思いを感じずにはいられなかった。

 見事な剣を取っての戦いの場面の描写である。しかし、ピーターが分極生成したフックの分身であるならば、彼等の物理的なコンタクトはあり得ないだろう。おそらくは、本体であるフックの損傷感覚という幻想があるのみであろう。己の流した血の色を目にしたフックの変化は、フックの自意識が励起したことを示すものであると思われる。

用語メモ
 quietus:“決算”、あるいは“清算”の意をなす言葉である。そこから人生の総勘定、すなわち“死”を意味する語として用いられる。“give a person his quietus”で“息の根を止める”となる。




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28 May

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 193


 I think all were gone when a group of savage boys surrounded Hook, who seemed to have a charmed life, as he kept them at bay in that circle of fire. They had done for his dogs, but this man alone seemed to be a match for them all. Again and again they closed upon him, and again and again he hewed a clear space. He had lifted up one boy with his hook, and was using him as a buckler, when another, who had just passed his sword through Mullins, sprang into the fray.
 "Put up your swords, boys," cried the newcomer, "this man is mine."
 Thus suddenly Hook found himself face to face with Peter. The others drew back and formed a ring around them.
 For long the two enemies looked at one another, Hook shuddering slightly, and Peter with the strange smile upon his face.
 "So, Pan," said Hook at last, "this is all your doing."
 "Ay, James Hook," came the stern answer, "it is all my doing."
 "Proud and insolent youth," said Hook, "prepare to meet thy doom."
 "Dark and sinister man," Peter answered, " have at thee."

 残虐な子供達の一隊がフックを取り囲んだ時、手下達の全てが既に倒されていたと思われる。しかし、燃え盛る火のように激しい攻撃にさらされてこれに抗うことのできるフックには、魔法の力でもかかっているようだった。子供達は、他の海賊達は片付けることができたものの、この男だけは一人で彼等全員を相手にすることができていた。幾度となく子供達はフックに攻め寄ったが、その度毎にフックは包囲を切り抜けてみせた。フックは、子供の一人を鉤爪に引っ掛けて持ち上げ、あたかも盾のように用いていた。その時、もう一人の少年がムリンズの体を剣で貫くと、この乱闘の中に飛び込んできた。
 「君達、剣を引くんだ。」この少年は言った。「こいつは、僕の獲物だ。」
 こうしていきなり、フックは目の前にピーターが現われたのに気付いた。他の子供達は身を引いて、二人の周りに円陣を組んで取り囲んだ。
 長い間、二人の敵は互いの顔を見つめ合っていた。フックは、わずかに体を震わせていた。ピーターは、不思議な微笑みを顔に浮かべていた。
 「そうか、パン。」ようやくフックは口を開いた。「全てお前の仕業だったのだな。」
 「その通りだ。ジェイムズ・フック。」厳しい声で、答えが返って来た。「みんな、僕がやったことだ。」
 「傲慢な礼儀知らずの若造め。覚悟しろ。」フックは言った。
 「悪党め、必ずお前を倒してやる。」ピーターが答えた。

 勇壮な冒険のクライマックスを彩る、華々しい対決のシーンである。読者は残酷な惨劇を期待する、血に餓えた観衆の一人としてこの場面の目撃者となることを要請されている。この流血を特有の美学としてことさらに評価する、子供達の情けを知らぬ期待感が、全てを具現化させているのである。

用語メモ
 buckler:中世の時代に用いられた円形の盾である。敵の子供の体を立て代りに使ったというのだから、凄まじい戦い振りである。当然その子供は命を失うか、重傷を負った筈であろう。



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27 May

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 192


 "No, lads, no, it's the girl. Never was luck on a pirate ship wi' a woman on board. We'll right the ship when she's gone."
 Some of them remembered that this had been a saying of Flint's. "It's worth trying," they said doubtfully.
 "Fling the girl overboard," cried Hook; and they made a rush at the figure in the cloak.
 "There's none can save you now, missy," Mullins hissed jeeringly.
 "There's one," replied the figure.
 "Who's that?"
 "Peter Pan the avenger!" came the terrible answer; and as he spoke Peter flung off his cloak. Then they all knew who 'twas that had been undoing them in the cabin, and twice Hook essayed to speak and twice he failed. In that frightful moment I think his fierce heart broke.
 At last he cried, "Cleave him to the brisket!" but without conviction.
 "Down, boys, and at them!" Peter's voice rang out; and in another moment the clash of arms was resounding through the ship. Had the pirates kept together it is certain that they would have won; but the onset came when they were still unstrung, and they ran hither and thither, striking wildly, each thinking himself the last survivor of the crew. Man to man they were the stronger; but they fought on the defensive only, which enabled the boys to hunt in pairs and choose their quarry. Some of the miscreants leapt into the sea; others hid in dark recesses, where they were found by Slightly, who did not fight, but ran about with a lantern which he flashed in their faces, so that they were half blinded and fell as an easy prey to the reeking swords of the other boys. There was little sound to be heard but the clang of weapons, an occasional screech or splash, and Slightly monotonously counting -- five -- six -- seven -- eight -- nine --ten -- eleven.

 「そうじゃない。問題は、女の子だ。海賊船に女が乗り込んで、碌な試しが無かった。女の子がいなくなれば、この船も問題は無しだ。」
 手下共の幾人かは、これはフリント船長がよく言っていたことなのを思い出した。「やってみても、良さそうだな。」海賊達は、疑り深げに言った。
 「女の子を海に放り込め。」フックが叫んだ。海賊達はマストに縛り付けられた人影のところに押し寄せた。
 「もう誰も、あんたを助けることのできる者はいないぜ。」ムリンズが嘲るように囁いた。
 「一人いるよ。」その人影が答えた。
 「誰だ、それは?」
 「復讐者、ピーター・パンさ。」恐ろしい返答が戻ってきた。こう言いながら、ピーターは外套を脱ぎ捨てた。そして海賊共は、キャビンでこれまで悪さをしていた者が何物であったか理解した。フックは二度何かを語ろうとしたが、二度共それを口に出すことができなかった。この驚愕の瞬間、彼の心臓が張り裂けてしまったのであろう。
 ようやくフックは叫んだ。「こいつの体を、まっ二つにしてやれ。」しかし確信はなさそうだった。
 「みんな、出て来い。かかれ!」ピーターの声が鳴り響いた。次の瞬間、剣を打ち鳴らす音が船に響き渡った。もしも海賊達が力を一つに合わせていたら、勝利は彼等のものだっただろう。しかしこの攻撃が行われた時、海賊達はまだ統率を取り戻していなかった。彼等はあちらこちらと無駄に駆け回り、自暴自棄に剣を振り回して、自分以外のものは全滅したと思い込んでいた。一対一の戦いならば海賊の方が上であった。しかし彼等は、受け身に回ってしまった。そのお陰で子供達は、2人一組で順に餌食を探すことができた。ならず者達の何人かは、自ら海に飛び込んだ。他の者達は、物陰に姿を隠した。スライトリーが彼等の姿を見つけて、戦うかわりにランプの灯りを海賊達の目に突き付けて走り回った。海賊達は目をくらませてしまい、残りの子供達の血のしたたる剣のなすがままになった。剣を打ち鳴らす音に、全てが呑み込まれてしまっていた。わずかに聞こえたのは、時折響く悲鳴と、落下した死者が水面を叩く音のみであった。そしてスライトリーが、単調な声で犠牲者の数を数え続けていた。「5人目、6人目、7人目、8人目、9人目、10人目、11人目。

 少年達が、直接殺害の手を下している様が、ここにも確かに描かれている。この物語は、冒険に付随する残虐さを描き出すことに、何の躊躇いも見せることはない。

用語メモ
 brisket:牛などの動物の体の胸の部分である。フックの発した言葉のもともとの意味は、「頭から胸のところまで切り裂け」ということになる。激しい残忍な感情を表にあらわした際には、しばしば人間の体を牛馬であるかのように呼ぶことがある。





◆和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

◇  教室が決まりました。西館の3Fにある第2コンピュータ室で開催の予定です。コンピュータの使い方をご存じの方は、当日お伝えするユーザー名とパスワードを用いてログインし、インターネットに接続することができます。“Daily Lecture”等の公開中のファイルを開いて、講座のテキストとして御覧になれます。ワードを起動して自分でメモ等を作成することもできます。データ保存のためのフロッピー・ディスクあるいはフラッシュメディアをご持参下さい。
 この機会にコンピュータやインターネットを試してみたいという方は、早めにお出で下されば使い方の説明を致します。

◇第1回目が連休の最中という、大変な日程で組まれていることが分かりました。初回欠席でも、受講には差し障りありません。2回目以降好きな時に出席して頂いて結構です。講座は4回連続ですが、毎回の講義内容は、その場の状況に合わせて随時工夫していく予定ですので、出席は単発でも構わないのです。当日の受講受付もできます。
 コンピュータの利用に親しんでいる方は、テキストを購入しなくても教室でインターネットに繋いで、物語の本文を参照することができます。コンピュータに不馴れな方のためには、書物のテキストを用意してあります。講座は2時から開始ですが、1時頃には講師は来ておりますので、質疑応答等行えます。
 あらかじめ、物語のどの部分を読んでみたいか、あるいはこのお話の解釈について疑問を感じる点等を用意しておいて頂ければ、これに対する解説として講義を行って行きます。
 対訳を作成してありますので、翻訳上の疑問点等をご指摘頂ければ、「意訳」の工夫などを話題にすることもできます。

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◇内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



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